”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
前回に続き「4.まったく同じ局面は2度とない」点について考えてみます。
繰り返しますが、それは武道/格闘技に限らず、スポーツ全般について言えることです。
前回は「直感」に焦点を当ててみました。
1対1で、試合が始まるとほとんどの判断を自身でしなくてはいけない武道/格闘技においては、練習で培ってきた動きを、試合中に「直感」的に出せることが勝負を分けますね、ということです。
今回は「再戦」についてです。
同じ相手と何度も対戦することは、割と多いです。
既に選手としてキャリアを積んでいる方々なら、覚えがあるのでは。
階級や世代などのカテゴリー分けによって、選手層は分化されていますので、無理もありません。
ファン目線で言っても、強豪選手たちが何度も闘うのは楽しみになりますね。
ボクシングならば、”マーベラス” マービン・ハグラー、トーマス “ヒットマン” ハーンズ、”石の拳” ロベルト・デュラン、”シュガー・レイ” レナードの、黄金時代対決は、もはや伝説ですが、それぞれ何度か対戦してますよね。
こんなキャラ立ちしまくってる黄金時代、マンガでもゲームでも作り込めないと思います。(^_^;)
現代においても、軽いクラスは層が厚く、未対戦のカードを実現させることが優先されているように見えますが、重量級では再戦は(ビジネスとして)必須コンテンツになっています。
アマチュア競技では、トーナメント方式で試合が組まれることも多いため、そもそも相手を選べないことから、強豪選手同士は何度も対戦することが多くなります。
最近で思い起こされるのは柔道の男子66キロ級、阿部一二三と丸山城志郎のライバル対決でしょうか。
オリンピックの日本代表選考で、男女のうち唯一、最終決定戦までもつれ込んだまま、その一戦が保留されています。
この新型コロナウイルス対応のための一時停止期間が、どちらにどう有利に働くのか。
個人的に楽しみなところです。
...脳トレとかなり離れました(笑)。
仕切り直して。
初戦以上に、再戦では勝ったほうも負けた方も様々なことを考えるはずです。
自身のコンディショニングから、トレーニングの内容、戦略が合っていたのか。
そして、次戦はどんな展開になるのか。
このあたりは、トレーナーが考えて練習に落とし込むことは当然ですが、選手自身が意識しないと試合では動けないと思います。
つまり「あいつに勝ちたい」と思いながらなかなか勝てない選手は、いま足りないのは何か、どうやったら身につけられるのか、考えないといけないわけです。
逆に、強みを活かして勝った選手は、「次にあいつが弱みを克服してきたらどう勝とうか」を考える必要があります。
キリがない話ですが、現役選手ならではの「苦しい楽しみ」ではないでしょうか。
極論すると、実力が拮抗しているならば、初戦は運が左右することも多いのでは。
しかし、2戦目からは「どう準備したのか」が勝敗を分けるということも多いはずです。
この「考える」「意識する」が、練習の質を上げることは当然として、脳にとってもプラスの習慣であることは、特に解説の必要もないでしょう。
「できてなかったこと」を「できるようにする」ことは、新しい神経回路を作る作業だからです。
ケーススタディー「空道編」
ひとつ、空道でのエピソードを。
寝技を得意とするMMAスタイルの選手と、強力なパンチで相手をなぎ倒すスタイルの選手がいます。
両者は過去にも対戦し、MMA選手がそのグラップリングの上手さを活かして勝っていました。
2019年、全日本選手権での対戦が印象的でした。
層の厚いクラスでのトーナメント決勝という、最高の舞台に2人は勝ち進みます。
MMA選手のタックルに対し、ハードパンチャー選手は「切る」動きを完全に実行し、寝技に持ち込ませません。
観ていた小野は、過去の経験から苦手分野を克服してきた、パンチャー選手が有利なのでは、と思いました。
その後、どんな展開になったかと言うと。
MMA選手はタックル、パンチャー選手は、やはり切る。
その後です。
お互いが立ち上がる動きの中で、MMA選手は軽いながらも速いワンツーを打ち込みました。
タックルを切った、というところで動きが止まっていたパンチャー選手は、まともに被弾しポイントを奪われます。
取り返さないと負けるパンチャー選手は、強引に前に出ますが、それはMMA選手の思うツボで、きれいにテイクダウンされて腕十字で勝負が決まりました。
以前の敗戦を受けて、次の展開を作ろうとしたパンチャー選手も良かったですし、その対策も見据えて、その先の引き出しも準備していたMMA選手には驚かされました。
前回とつなげるなら、準備してきたことが「直感」的に出せたのでしょう。
2人は、特に個別の対戦相手をイメージして対策したのではないかもしれません。
自分の強みを活かすため、あるいは弱みをカバーするために、何をすればいいかを考えて練習することは、脳にいい習慣であるとともに、競技結果にも影響しますよ、ということです。
...ちなみに、匿名にした意味がないほど、関係者にはバレバレだと思います(笑)。
悪しからず。(^_^;)
ケーススタディー「ムエタイ編」
ちなみにムエタイでは、再戦どころか再再戦、再々再戦もザラですね。
初戦と再戦で結果が大きく変わった試合を紹介しておきます。
ただし、タイでは賭けが成立することが前提のため、体重ハンディも普通ですし、戦略や技術だけの影響とは決められませんが。
センマニーとタワンチャイの2019年の2試合です。
3月の第1戦。
接戦ではありましたが、タワンチャイが得意の左ハイキックでダウンを奪い、立ち上がったセンマニーをサイドキック気味の顔面前蹴りで完全KOしました。
新旧MVP対決ながら、当時の状況は対照的でしたね。
クラープダム*との3連戦を全勝でクリアしたタワンチャイ。
*(日本で梅野源治をKOしてラジャダムナンスタジアムのタイトルを獲ったので、覚えている方も多いのでは)
クラープダムが契約体重をオーバーしたりしながら、ムアンタイ*との3連戦を勝ち越したことを受け、「仇討ち」的なストーリーで組まれたこともあって、注目を集めましたが、いずれも完勝したタワンチャイの評価は急上昇していました。
*(タワンチャイと同じジムの、いわば兄弟子。ゾンビの通称を持つ人気選手です)
対するセンマニーは、15歳でスタジアムのタイトルを獲得した「神童」ですが、前年にはヨードレックペット*との、これまた3連戦で全敗しています。
*(日本ではロッタンと並ぶくらいの知名度ですね。KNOCKOUTのチャンピオンにもなりました)
内容的にはセンマニーの勝ちでいい試合もあったと、個人的には思っていますが、賭けも含めたジャッジではそうなったということです。
そんなタワンチャイ↗、センマニー↘な流れでのタワンチャイの完全KO勝ちは、「世代交代」を感じさせるものだったわけです。
そして6月の第2戦。
上記の流れからして、2戦目が組まれたことにまず驚いたわけですが。
蓋を開けてみるとセンマニーが主導権を握り、パンチも効かせて、5R後半ではタワンチャイも逆転をあきらめざるを得ない展開に持ち込みます。
今度はセンマニーの完勝となったわけです。
細かい解説はしませんが、1戦目と2戦目では、センマニーの戦略は異なっていた、と思います。
使っている技術そのものは変わらないはずですが、使い方を変えたんだろうと。
それも、ちょっとしたことだと思います。
観比べてみてください。
これは、若くて勢いのあるタワンチャイを、センマニーの経験値が抑え込んだ試合とも言えます。
センマニーも20代半ばですけども、戦歴は倍以上? あるんじゃないでしょうか。
さて、脳トレの話はどこへいったんだろうと我に返るわけですが。(^_^;)
大事なことは、試合数を重ねたとしても、どれだけ長いキャリアがあったとしても、今できてないことをできるようにする、そのためにはどうすべきかを考えてないと、それは「経験値」のレベルにはならないということです。
ちなみに、日本の神童、那須川天心の強さのコアは、身体能力ではなくて試合で「体験」したことを「経験」に引き上げられる「格闘IQ」の高さだと思っています。
次回に続きます。
1. 自身の身体をコントロールする必要があり、
2. かつその身体操作のバリエーションがとても多く、
3. 対人であるため、瞬間的な判断力が求められるゲーム的要素もあり、
4. しかもまったく同じ局面は2度となく、 ←今回
5. かつ、他者との協働が必要 ←次回