”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
トーナメント1回戦をアップした後、BOMを先行してレポートしてしまいましたが、やっと決勝です。
(^_^;)
セミファイナル(第7試合) ミニフライ級(-49kg)NEXT QUEENトーナメント 2021 決勝戦 3分3R延長2R
大倉 萌 vs. AKARI
大倉は山本ユノカを、AKARIは宮﨑若菜を、それぞれ熱戦の末判定で降しての決勝進出です。
大倉はこれがプロ4戦目ながら、試合のたびにそのポテンシャルの高さ、技術力の確かさでキックボクシング/格闘技ファンを驚かせている大道塾 ”空道”のチャンピオンです。
対するAKARI。
このトーナメントは、実質AKARIのために開催されたと言っても過言ではないでしょう。
女子キック界の若きレジェンド、神村エリカを師と仰ぎ、17歳の若さで7戦無敗。
以前から同階級のチャンピオンである ”女帝” 寺山日葵をSNSで挑発してチャンピオンになることを公言してきました。
挑戦者決定トーナメントの開催も、彼女なしでは話題性が低くなったかもしれません。
しかしそれだけに、重圧も他の選手に比べて大きかったと想像します。
1回戦も、この決勝も、試合開始の顔には明確に不安と緊張が見て取れました。
AKARIサイドでは大倉が勝ち上がってくることを想定していたようです。
そして、そのほうが苦しい展開になることも折り込んでいたのでしょう。
長い脚から繰り出す蹴り技を持ち味とするAKARIからすると、体格では劣っていても空道とムエタイをベースにした多彩な足技を武器とする大倉は、初めて闘うタイプだったはずです。
大倉サイド視点で見ていた小野からすると、山本戦を超えたことでアドバンテージは大倉にあるのではと思っていました。
なぜか。
相手の身長が高いほうが、本来の大倉のポテンシャルはさらに活きると思っていたからです。
もともと、空道女子軽量級のなかでも身長に劣る大倉は、自身より長身の選手と闘うことは、ジュニア時代から「いつものこと」でした。
普段の練習でも、男子選手を相手にするため、慣れているのはむしろ「自分より大きな相手」なのです。
しかしながら、キックデビュー戦の渡邉奈央、2戦目の百花ともに身長は大倉と同じかやや低く見えました。
苦戦/敗戦した要因には、ただでさえキックルールでのキャリアがない上に、慣れない同じ体格の相手だったこともあるのではと思います(もっとも、相手サイドも事情は同じかもしれません)。
山本戦は、その意味で初めて慣れている距離感での試合となったわけです。
序盤の一方的な蹴り技でのプレスは、そのことを示していました
(もっとも、山本の覚悟の頑張りにより、苦戦となったのはレポートした通りです)。
そしてAKARI戦。
キックルール4戦目にして、もっとも背の高い相手との試合。
そして、自分より背の高い山本戦をキックルールで初経験しての試合。
よりポテンシャルが活きるかもと思ったのは、そんな事情からです。
1R、その想像は間違っていないと思った立ち上がりでした。
AKARIからすればパンチの距離まで近づいていった大倉は、ロー、ミドル、ティープで先制しペースを取ろうとします。
AKARIはキャッチしてパンチも狙いますが、大倉の蹴り足のコントロールで強いヒットには至りません(ジャッジがどう評価するかは判りませんが)。
この身長差では普通ない、小さいほうからの顔面前蹴りも、空道での得意技です。
AKARIの得意技でもあることで、心理的にもAKARIを追い込んだのではないでしょうか。
フェイントでAKARIを動かし、空間の掌握では大倉がリードします。
対するAKARIは、カウンターを狙うものの、何と言うか攻撃のスケールが小さい印象を受けました。
前述のプレッシャーもあったのでしょう。
端的に言えば、「萎縮した」状態でファーストラウンドを過ごしていました。
しかしながら。
神村トレーナーが大声で檄を飛ばしたあたりから、AKARIに動きが出てきます。
左手で距離を作る(プレッシャーをかける)ところから、思い切った顔面前蹴りをヒットさせました。
このシーンは、後から考えると大きな意味を持ったかもしれません。
1Rは、試合のコントロールという点では大倉のラウンドかなと思いますが、毎度書いているように1Rはジャッジ心理的に差をつけづらいこと、終盤でAKARIが大きい攻撃を当てたことから、イーブンでも仕方ないかな、と思いました。
2R、変わらず大倉がフェイントを織り交ぜて蹴り技で仕掛けます。
組み際でのヒザも、むしろ生粋のRISEファイターであるAKARIよりも上手く使っていました。
※組んでからワンアクションだけ認められるRISEルールでは、組み際、組んだ瞬間の対応ができれば大きなアドバンテージになると思っています。
AKARIは大崩れしないように、カウンターを狙いながらチャンスを待つ展開、といった印象でしょうか。
そしてこのシーン。
大倉の左フックがヒットして、AKARIが後ろに崩れました。
顔に当たっているので、レフェリーによってはダウンもあったでしょうが、小野個人の感覚ではノーダウン裁定でいいかなという感じです。
が、AKARIが立ち上がるのに時間をかけているので、小野がレフェリーなら、その時点でダウンとするかもしれません(ムエタイ的なジャッジですねw)。
それよりも。
大倉の姿勢にご注目いただきたいなと思っています。
右拳を脇に引き、左手で相手を制圧する。
空手で言う「残心」です。
普段ムエタイよりのレポートばかり書いている小野ですが。(^_^;)
このシーンはしびれました。
「残心」は、ざっくり言うと、自身の技の後に次の動作に入る前に(あるいは入りながら)、相手に対して注意を切らさない、というような意味です。
ダウン → ガッツポーズ
ではないということですね。
タイの選手でも、倒した相手からすぐ離れずに様子を見る場合があります。
「とどめを刺せる姿勢を崩さない」ということですね。
大倉が幼少時より身につけている、武道の心構えが感じられる所作でした。
対するAKARIはスポーツ格闘技らしく、無防備にゆっくりと立ち上がったことも、コントラストとして印象的です。
これは、別にどちらがどうとかいうことではなく、バックボーンが違う2人が、それぞれのバックボーンを背負って闘っているんだな、と気づいたシーンだったということです。
このラウンドをどちらにつけるのか、ジャッジ泣かせだったのではと思います。
小野ならば、先ほどのニアダウンを根拠に大倉につけますが、コントロールと細かい連打の大倉と、判りやすい大きい右ストレートのAKARI。
差をつけづらいのは確かだったと思います。
3R、立ち上がりの両者の表情は対照的でした。
AKARIは神村トレーナーの指示に、大きく「はい!」と応えて立ち上がります。
まったく悪い意味を含まず、宗教的だとさえ思いました。
恐怖や不安を押しのけて、自分のすべきことをなす時、宗教は偉大な役割を果たすことがあります。
対する大倉。
これも、後輩ながらしびれる表情ですね。
先ほどの「残心」もそうですが、「私はスポーツをやってるんじゃない。相手を倒すために闘っているんだよ」という感じです。
...誤解なきように補足しますが、本人はそんなこと一言も言っていませんし、普段はいたって優しく聡明な女の子です。
(^_^;)
しかしながら。
この大倉の入れ込みが、勝負を左右した印象はあります。
立ち上がりに距離感を作ってAKARIを翻弄した感さえあった大倉ですが、「絶対に勝つ」という思いからか、立ち位置や攻めのリズムが単調になっていました。
簡単に言えば「前に出なきゃ!」という感じですね。
これは、前回のRISEで百花に終盤で逆転を許したことも影響している可能性はあると思っています。
小野自身も「チャレンジャーらしく最後まで全力で攻めないとダメ」と本人にメッセージを送りました。
そのこと自体は悪くなかったのですが、AKARIがその上を行ったなあという感じはします。
動きが少なくなった大倉に、的が絞りやすくなったこともあるのでしょう。
思い切って放った前蹴りが大倉を捉え、大倉はたたらを踏みます。
このシーンの印象は、試合を決定づけたかもしれません。
後ろによろめいたように見えたため、ダメージを印象づけてしまったことに加え、口を切って出血してしまいます。
最後の最後、AKARIは執念を見せたと言っていいと思います。
このまま試合終了。
個人的には延長Rもあるかとも思いましたが、判定は2-1でAKARIに挙がります。
本人たちの感覚としても、妥当だったのかもしれません。
しかしながら、1票は大倉に入っていることも見逃せません。
面白いことに(と言ってはいけませんが)、4戦して2勝2敗の大倉は、敗れた2敗ともにスプリットディシジョンでした。
ジャッジのバランスによっては、どっちにも転ぶ試合をしたということです。
もっとも、本人も試合終了時に「取られた」と思ったそうなので、判定は受け入れています。
この結果を受け、早速 “女帝” 寺山とのタイトルマッチが組まれたAKARI。
厳しい試合になるとは思いますが、やはり勝って欲しいところです。
大倉。
負けに不思議の負け無しです。
全体的に見直し、キャリアを積み、闘い続ける以外には道はありません。
小野もこれまで以上に、できるサポートはしていきたいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。