”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
いよいよ本日決勝が行われる、NO KICK NO LIFE バンタム級トーナメントの1回戦を直前振り返りしてみたいと思います。
ちょっと直前すぎますが。(^_^;)
このトーナメントもそうですが、NO KICK NO LIFEは、個人的に一番観たいカードを組んでくれるプロモーションだと思っています。
ヒジあり5Rにこだわってくれるのも嬉しいところです。
第1試合 平松 弥 vs. 山田 航暉
若くして既に戴冠経験のある平松は綺麗なムエタイスタイルの選手という印象です。
対する山田も若くして戴冠、一度引退して昨年カムバックしたばかり。同じトーナメントに出場する神助に、熱戦の末判定負けを喫し、復帰後の連勝は途絶えましたが、どちらに転んでもおかしくないジャッジだったと思います。
お互いがムエタイスタイルのため、噛み合う技術戦を予想していましたが、それはいい意味で裏切られます。
試合開始と同時に、山田がいきなり至近距離まで詰めます。
普段ならティープ、得意の左ミドルなど、ロングでの攻防の多い山田。
観ている側も驚きましたが、向かい合った平松も面食らったのではないでしょうか。
それでも手数は多くないためか、平松が自分の距離を保とうとします。
2R、山田はミドルキックなど遠距離も支配しつつ、やはり距離を詰めていきます。
平松は左ボディーショットでその距離に対応しようとしますが、山田がカウンターの右ストレートを綺麗に合わせ、ダウンを奪取。
まだ2Rでもあり、無理に詰めずに3Rへ。
3R、ムエタイでも重要な扱いの中盤に差し掛かり、お互いに手数が増えてきます。
山田がミドル、ローでプレスすると、平松も応戦。
やや平松はローのダメージがありそう、と思った矢先、おそらくこの試合初めての首相撲の攻防になります。
山田の組み方はセオリー通りとも言え、遠目で観てても「ヒジが入る」と思いました。
右腕で相手の左腕を上から制し、コントロールしてのヒジが命中。
倒れた平松をレフェリーがストップし、山田のTKO勝ちとなりました。
至近距離でのプレスからKOした山田のスタイルチェンジに驚かされた試合でした。
第2試合 麗也 vs. 神助
麗也は既にベテランと言っていいキャリアの持ち主で、かつては新日本キック協会のタイトルを保持。
第1試合の山田航暉にも勝っていますが、膝の不調を抱えて近年は試合数自体少なくなっていましたが、一昨年に石井一成と対戦し、ヒジで切られた後に切り返した大熱戦を演じました。結果は判定負けながら、復調の兆しが見られた試合でした。
しかしその後、膝の手術のため戦線離脱。
復帰後はドローが続き、本来のポテンシャルに見合う結果が出ていない印象です。
神助は今大会のダークホース的な存在だと思っていました。
前述のように、前戦では山田に判定勝ち。
タイトルホルダーではあるものの、キャリア的には番狂わせと言ってもいい勝利で勢いに乗る、強打者です。
1R、独特のリズムから、その強打が火を噴きます。
ノーモーションの右ストレートがヒットし、麗也の腰がガクリと落ちました。
麗也も追撃にカウンターを合わせ、ペースは渡しません。
その後はやや見合う時間が多くなり、フェイントの掛け合いが続きます。
2-3Rはお互いに相手を警戒しながら距離の取り合いを続けます。
麗也はカウンターを見せながらインロー・アウトローをコツコツ当て始めます。
神助は長身を活かしてミドルやバックキックも見せますが、麗也が足で外します。
4R、やや脚のダメージがありそうな神助に対し、麗也がカウンターをヒット。
更にインローで距離を作り、このラウンドの優勢を印象づけます。
最終5R、やはりローを中心に、カーフも蹴り分けてプレッシャーをかけつつ、神助が前に出ると足で外す麗也がペースを握っている印象です。
そして左フックのカウンターも何度もヒット。
しかし神助も前進を止めず、コーナーに追い詰めてからのラッシュで逆転を諦めない姿勢を見せます。
試合終了。
観ていた印象では麗也かな、と思いましたが判定はドロー。
公式記録はドローでも、トーナメントは上に進む者を決めなければなりません。
延長6R。
麗也は引き続き神助の前進をヒラヒラとかわしながら、インロー、アウトローと当て、ヒジのカウンターも見せながらペースを上げます。
神助もパンチを振るいますが、軸足である左足に体重が乗り切らなくなっているようにも見えます。
そして麗也の左ミドルと絡めてのインローで、神助がバランスを崩します。
やはり脚のダメージは明白です。
最終盤、麗也が左フックのカウンターで神助の動きを止め、連打を見せます。
ラストは右のヒジで試合終了。
延長戦は文句なしで麗也が勝利しました。
タラレバですが、1Rの神助のクリーンヒットは、もっと後半に当たっていたら展開が変わっていたかもしれません。
怖い攻撃をしっかり警戒しつつ、下から崩した麗也と、逆に倒せそうな手応えがあったがためにパターンが単調になった神助といった印象です。
しかしもう一度観たい好試合でした。
第3試合 花岡 竜 vs. サンチャイ・TEPPEN GYM
“平成最後の怪物”花岡は紹介の必要な選手でもないでしょう。
ジュニア時代にはほとんど無敵の活躍を見せてプロ入り。
プロ入り後も”令和の怪物”吉成士門には首相撲に捕まり惜敗したものの(これもNO KICKでした)、これはその後も無敗街道を進撃中の士門をほめるべきでしょう。
そして昨年初めには石井一成を破ってファンを驚かせました(これもNO KICK)。
対するサンチャイは那須川天心のキック時代の所属であるTEPPEN GYMのトレーナー兼選手です。
石井一成や大﨑孔稀らとも対戦し、敗れはしたものの首相撲の展開では圧倒し、接戦に持ち込んでいます。
この試合のポイントはサンチャイの首相撲を花岡がどのように抑えるかとなるでしょう。
1R、サンチャイはスローに立ち上がります。
インロー、ティープで花岡がつっかけるタイミングを外します。
かと思うと突然跳びヒジ。
そして目線を下に向けたフェイントからのハイキック。
在日に限らず、タイ人が外国人選手とムエタイルールで闘うときの常套手段と言ってもいい攻撃パターンですね。
ゆっくり立ち上がりつつ、急に倒す技を出してあわよくばさっさと仕事を終わらせよう、という。
タイ人同士なら、そういう奇襲はまず通じませんし、ギャンブラーへの印象もあまりよくないでしょう。
しかし近年の日本人選手の実力向上に伴い(サンチャイもその貢献者かもしれません)、最近はあまり見かけないように思います。
花岡の実力が解っているからこその奇襲、長引かせたくないという思いの表れのように見えました。
花岡は落ち着いて対処。
直後に組まれると逆にサンチャイを崩します。
これにはサンチャイは悔しい時の苦笑いでしたが、花岡の首相撲対策もよくできていると思いました。
そして蹴り足をキャッチしての綺麗な足払いも決めます。
どっちがタイ人だか判らないな、とはムエタイファンなら思ったことでしょう。
2R、打って変わって前に出るサンチャイに対し、花岡は左右にステップしながら左右ローをヒットさせ、組んでも崩されません。
このシーン、よく見ると、ブレイク際にヒザを金的に2回入れてますね。
ある意味サンチャイが「本気」を見せてきたシーンです。
タイだと金的はもらったもの負けみたいなところもあり、お互いに当たっても問題なしだったのですが(最近は当たってるよ、と相手にアピールするシーンも多いですね)、日本では厳格(過ぎる?)なので、見えないところで嫌がらせをしてきた感じでしょう。
三点止めの鉄製ファウルカップであれば、ある程度の強さの蹴りならダメージにならないので、日本の試合でファウルでの中断がとても多いのは、つけ方に問題があるのではと個人的に思っていますが、それはまた別の機会に。
花岡はローを主体に、パンチで散らしながらヒザも効かせます。
3Rもほぼ一方的な花岡ペースで試合が進みます。
動きの止まったサンチャイを、花岡の攻撃が面白いように捉えます。
とはいえロー以外のクリーンヒットはギリギリで許さず、花岡としても自分のペースと感じるのが難しい展開でもあります。
そこで一発のヒジ打ちがこの試合を面白くしました。
ここまでフォロースルーの効いたヒジはなかなか見られません。
いちかばちか、というヒジを当てたサンチャイの勝負強さには驚かされます。
花岡は左目上をカット。出血します(後日の報道によると鼻骨も折れていたとか)。
4R以後、花岡はドクターストップも気にしながら闘わなければなりません。
サンチャイは判定不利は折り込み済みなのか、花岡の出鼻を上手くティープで抑えながら、強い一発を狙う展開です。
最終5R、花岡は攻撃を散らしながら、左ガードをしっかり意識したまま、ほぼ一方的に攻め続けます。
サンチャイはティープを軸足に合わせる巧さなども見せつつ、一発の強打かヒジ狙いに徹する展開。
しかしサンチャイの体力が限界なのは誰の名にも明らかでした。
得意の首相撲に持ち込んだところで逆に投げられたシーンが、この試合の象徴です。
判定は2-1と割れましたが、正直サンチャイに上げる理由はない判定だったかと思います。
巧さと勝負強さは評価できますが、勝敗という意味ではストップされなかった以上花岡の完勝だったと思います。
第4試合 HIROYUKI vs. 國本 真義
HIROYUKIもベテランと言っていい選手です。
新日本キック協会の2階級王者にして、どのプロモーションにも上がるような(逆に言えばどこからも引き合いのくる)選手です。
旧藤本ジムの最後の選手のひとりらしく、強いローを起点としたコンビネーションを得意としますが、正直スタイルとしてはつかみどころがない印象もあります。
強い・巧いと感じる試合もあれば、あれ、それでやられるんだというところもあるという。
はまれば優勝候補の一角とも言えますね。
國本は以前の山田との試合をレポートしましたが、ハートとフィジカルの強さが印象的です。
HIROYUKIとは対照的に、西日本のプロモーションでほとんどのキャリアを積み上げました。
1Rから國本がローとカーフを効果的に使います。
HIROYUKIは自分のペースがつかめない印象ながら、前進して2R終盤には組んでのヒザでペースを変えに行きます。
3R、國本は変わらずコツコツとカーフを当てます。
しかし、当てることを優先して軽めに蹴っていることと、HIROYUKIの脚が丈夫なせい(?)か大きなダメージは与えられず、HIROYUKIは徐々にプレッシャーを強めます。
当たっている攻撃の数なら國本なのですが、実力的にはHIROYUKIかなと思わせる雰囲気があるのもHIROYUKIの面白いところです。
もっとも、この感覚(攻めている、当たっているほうが強いとは限らない)は格闘技経験者特有のものかもしれません。
4R、やはりHIROYUKIが圧を強めます。
そして、その前のRからですが右ミドルをいいタイミングで当て、國本の左腕が真っ赤になり、バランスも崩すようになってきます。
しかし國本も軸足を払って崩すなど巧さを見せ、どっちがリードしているか判りづらい状況で最終Rに突入します。
このRから國本の消耗も気になる印象でした。
蹴られても崩れないことが多いはずが、バランスを崩したりよろけたりするシーンも目立ちます。
最終5R、手数ではインローとカーフの國本、プレッシャーと一発の強さのHIROYUKIの流れは変わりません。
HIROYUKIは左脚に相応のダメージはありそうですし、國本はプレッシャーで消耗しています。
HIROYUKIの身体能力の高さを印象づける跳びヒザで、試合終了。
蹴られ続けた左脚で踏み切っているのは驚異的です。
判定はHIROYUKIへ。
点数ほど差はない試合でした。
この試合、勝手かつ失礼を承知で高校野球に例えるなら。
HIROYUKIはたぶんあんまり練習しなくてもエースで4番とかやってしまうタイプ。
國本は誰よりも練習熱心で、野球への理解度も高いけどレギュラーになれないタイプ。
のような印象です。
だからこそ國本は速球(強打)で勝負せず、確実に当てられる軽めのカーフで削る戦術でペースを握りにいったのですね。
しかし、格闘技では野球と違い点数でなく人間の判定が勝敗を決めます。
HIROYUKIは身体能力とセンスで流れを引き戻し、かつ強い攻撃で好印象を与えて判定を取った。
判定の件は置いておくとして、そんな個性のぶつかり合いも、この試合の魅力であり格闘技の魅力かなと思います。
野球なら勝負にならなかったもの同士が、熱戦を演じることもできるという意味で。
さて、決勝はもう数時間後です。
小野もそろそろ自宅を出ます。
誰が頂点に立つのでしょうか。
…予想はしません。
(^_^;)
配信もあるようですので、興味がある方はぜひ。