”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
今回もキックボクシングですが、ちょっとムエタイより目線も交えて書いてみます。
セミファイナル(第14試合) 志朗 vs. 鈴木真彦 55kg契約 3分5R
メインイベントの祐樹vs.天心も、女子トーナメントも素晴らしい試合でした。
特に小野が何か書いても蛇足にしかならないくらい。
...いつもそうじゃないかと言われれば返す言葉もありませんが。
(^_^;)
ともに那須川天心とは対戦経験あり。
2人とも再戦、そしてリベンジを賭けたトーナメントだったわけですが、それまでの2人の来し方はだいぶ異なります。
詳しくはそれぞれのオフィシャルサイトなどをご参照いただければと思いますが、簡単に紹介しておきます。
志朗については、ほぼ純粋培養の「ナックムエ(ムエタイ選手)」です。
15歳からタイのジムに住み込みでトレーニングし、デビュー。
テレビマッチのメインを常連で張れるほどの評価を受けるまでになっていました。
日本では、逆上陸的に新日本キック協会への参戦を経て、RISEに参戦しています。
タイのトップ選手であるルンキットとの接戦を制し、天心との対戦にこぎつけるも、天心の間合いに入り込めずに敗戦(という小野の印象でした)。
個人的には、数年前にタイと日本を行き来していた時期に、小野の古巣である大道塾吉祥寺支部に出稽古で来ていたことがありました。
小野は相手をしませんでしたが(しても相手にならなかったでしょう(^_^;))、師匠である飯村支部長とのマススパーリングを興味深く観ていた記憶があります。
対する鈴木。
19連勝中というキャッチで煽られていましたが、その最後の敗北が2015年の那須川天心戦でした。

既にRISEのバンタム級王者になっていた天心と、DEEP☆KICK王者だった鈴木。
1Rで一方的に天心にKOされた試合の後、鈴木は連勝を積み重ね、5年がかりで挑戦者決定トーナメントにたどり着いたわけです。
1R、鈴木は持ち味である圧力と手数を見せて前進します。
志朗は後手に回ったところもあり、押し返そうという焦りもやや感じられました。
ローキックを強く空振りして、自分でバランスを崩すシーンもあったほどです。
しかしながら、ロープ際に追い詰められた志朗の右ストレートが、カウンターでクリーンヒットし、いきなりのダウン奪取となりました。
ロープ際に「誘いこんだ」という見方もできますが、印象ではやはり鈴木が押し込んだように思えます。
しかし、志朗はそのプレッシャーを「捌ける」と判断して落ち着いてカウンターを打ったという印象も、またありました。
試合の立ち上がりは、経験を積んでも難しいところはあります。
最初にペースをつかみたいのは、やはりイケイケで倒すスタイルの鈴木だったでしょう。
しかし、志朗は慌てて応戦せずに、ブロックを固めてボディーストレートやローキックで距離を作りつつ、自分のペースに持ち込んだことが奏功しました。
さらに言えば、速いステップワークから飛び込んでくる天心を想定した、コンパクトな右カウンターのようにも見えましたね。
このダウンは、いろいろな意味で試合を決定づけました。
もちろん2ポイント獲得が確定したこともありますが、両者のスタイルからして、圧倒的に志朗優位になったのです。
その上で、志朗の技術的なレベルの高さ、あるいはムエタイからRISEへの闘い方のアジャストのさせ方のレベルの高さを見せてくれています。
本稿のテーマはそのあたりですね。
ダウン奪取後、志朗の左ストレートが目立ちました。
何度か鈴木の顔を跳ね上げています。
ダウンの影響はもちろんあったと思います。
それでも自分のペースを取りにいって前進を止めなかった鈴木は、個人的には高く評価したいと思います。
回復のために休む戦術もありますが、鈴木のスタイルからすると退がったり止まったりすることはマイナス面が多く、3R以内に取り返すのはかなりのギャンブルです。
ならば、さらに倒されるリスクも負って攻め込むことは、鈴木からすればベターな選択肢ではなかったでしょうか。
志朗の左ストレートに話を戻します。
試合の実況でも「ジャブ」と表現されていましたが、あえて「左ストレート」と言います。
両者は同じかたちの技です。
左(サウスポーなら右)の手で、まっすぐに相手の顔を狙う。
違いと言えば、踏み込みの強さ。
そしてジャブが早く戻すことを大事にするのに対し、左ストレートはフォロースルー(押し込み)を重視することでしょうか。
しかし、目的、使い途は異なっています。
ジャブは、相手との距離を測り、入ってこようとするところをけん制し、とコントロールするための武器として使います。
左ストレートは、倒すこともできますし、それ以上に相手を押し込んで距離の取り合いで優位に立つこともできます。
接近して自分の攻撃を出せるリズムを作りたい鈴木。
それをさせずに、逆に小さいモーションの左ストレートでダウンのダメージを更に増幅させる志朗。
左ストレートには、その志朗の戦略が乗っていたと思いますし、やはりこれも天心戦を想定している武器なのかもしれません。
そこで志朗のバックボーンであるムエタイとの絡みを想起するのですが、ムエタイにはジャブはありません。
...というのは言いすぎですが(笑)、相手の顔めがけてチョンチョンと突くような、ボクシング的なジャブはあまり使わない傾向があるのは確かだと思います。
距離を測るためには、パンチとは言わないような前の手の伸ばし、相手のガードの手を触りに行くような動きや、ティープ(前蹴り)、インローを使うのが一般的と言えます。
小野がタイのジムでミットを持ってもらった時も、ワンツーを打つとき、左も右も思い切り強く打たないと怒られたりしました(笑)。
(^_^;)
パンチも蹴りも、全力で打ち込むのが、タイ式です。
長く書いてしまいましたが、志朗の左ストレートは、1Rでダウンを奪った後の展開を作った重要要素だったと思っています。
2R、同じような展開になりました。
詰めたい鈴木に、丁寧に距離を作りながら要所でヒットを奪う志朗。
もともと、タイを主戦場としていた頃から、志朗はパンチとローの選手でした。
ムエタイは、綺麗なミドルの蹴り合いだけじゃないということは、前回も書きましたが、タイで育った志朗のスタイルはそのことをよく示しています。
3R、信じられないタフネスで追い上げようとする鈴木の頑張りは光りました。
が、志朗の足払いはそれをことごとくくじきましたね。
前のめりに打ってくる鈴木の左足を、志朗は左足で引っかけて何度も転倒させました。
これも、タイではおなじみのテクニックです。
引っかかって転んでくれる選手がいないくらい普通。
K-1でもブアカーオが使ってましたね。
この技術を3Rで使ったことも、志朗のRISE適応の一部ではないかと考えています。
ムエタイでは、リードを奪った選手は最終5Rは攻め込みません。
例えパンチや首相撲が主武器の選手でも、ティープとディフェンスに徹し、足を使ってある意味では露骨に「逃げる」動作をします。
ムエタイ的には「はずす」と言って一般的ですね。
そのため、圧勝と見られる試合であっても、採点は「49-47」となってたりします。
50点満点ではなく、最終Rは相手に譲ったかっこうになるということです。
しかしながら、日本のキックボクシングであるRISEで、そこまで「はずす」行為は、しづらいと思います。
こういうことです。
①3Rの試合では、1Rは差をつけづらく、逆に3Rは差をつけやすい傾向があると思われる
②したがってダウンがあっても3Rの印象は大事にしたいので、攻める姿勢は保ちつつ、ダウンポイントは守る必要がある
③よって、攻めさせつつ、崩すテクニックである足払いを使う
④しかも、それまであまり見せてなかったことで、ハマる確率は挙がる
志朗は、RISEなりの「はず」し方をしたなあと思いました。
これはサウスポーである天心には使いづらいテクニックではあるかもしれません。
そこも含めて、更に磨いてくるのでしょう。
いずれにせよ、前回までのRISE参戦の内容を踏まえて、志朗は「ムエタイ技術をRISEルールにアジャストさせてきた」ことが今回の結果だったと感じています。
鈴木も強いし、いい選手ですが、天心と闘った場合、やはりカウンターでKOされていた可能性は高いのではと思っています。
それでも、鈴木は強い選手ですし、トーナメント形式でなければ違った結果もありえたと思います。
3R終了時に泣き崩れた姿には、心打たれた格闘技ファンも多かったはずです。
...まあ小野もその一人だったりします。
(^_^;)
志朗 vs. 天心、そして鈴木の次戦を楽しみにしています。
お読みいただきありがとうございました。