観戦レポート 20201114 RISE143

”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。

今回もキックボクシングですが、ちょっとムエタイより目線も交えて書いてみます。

いつも通りですね。

(^_^;)

メインイベント(第10試合)Super Fight! スーパーフライ級(-53kg) 3分3R延長1R

大﨑一貴 vs. 川上 叶(きょう)

大﨑一貴は前回の9月の試合で「天才」田丸からベルトを奪った後の初戦です。

タイトルマッチの後、こんな短期間で次戦を受けるのは、おそらく日本のキックボクサーでは例の少ないことでしょう。

タイで8連勝してタイトルマッチも経験した経歴からすれば、普通の感覚なのかもしれません。

対する川上。

若くしてシュートボクシング(以下、SB)のバンタム級王者です。

スタイルは日本人SBらしいとも言える、手数の多さと動きの速さが目立つ選手です。

そして今回テーマ的に考えてみたいのは、「ディフェンス力の評価」と「KO狙いの難しさ」ですかね。

1R、とにかく川上が良かったと思います。

SBの持ち味である速い仕掛けからの上下のコンビネーションは、RISE寄り解説の直樹も褒めざるをえない(笑)感じでした。

対する一貴は、前戦と違い、田丸と同じサウスポーの川上に、ほとんど右ミドルキックを出しませんでした

田丸戦では、身長の低い一貴がミドルキックで空間を支配して試合を作ったことを考えると、首をかしげながら観ていた感じですね。

川上の動きが速いこともあるかと思いますが、左右に動く相手には、パンチより蹴ったほうが楽に間合いに入れるはずです。

なのに接近してパンチを打ちにいくところを、川上の速いコンビネーションで止められてしまい、やりづらそうな立ち上がりに見えました。

2R、それでも一貴のプレッシャーに川上が後退し、コーナーやロープに詰められるシーンが増えます。

川上の反撃を丁寧にブロッキングしながら、ボディーショットを打ち込み、印象としてもインパクトを与えます。

川上もSBの伝統の高く堅いブロッキングでよくしのぎ反撃しますが、一貴のディフェンス力もハイレベルです。

一貴はハードパンチャーとしての印象が強いのですが、実は国内軽量級屈指のデイフェンス力を持っていると、個人的には思っています。

ディフェンス力が高いと言うと、例えば一貴の前戦の相手である田丸のような「目の良さ」がわかりやすく評価されがちです。

これもボクシングの影響なのかもしれませんが、手足にヒジヒザ、組み合いが許容される場合、ディフェンス技術の枠組みはぐっと広がります

そして、ディフェンス技術の幅の広さとジャッジの評価のされ方も、キックボクシングとムエタイの違いでもあります。

詳細は別の機会にでもまとめてみたいと思いますが、簡単に言うとこういうことです。

ムエタイの場合「美しく大きな攻撃により、相手のバランスを崩す」ことが評価されることはたびたび書いてきました。

裏を返せば、体勢が崩れたり攻撃できない状態になることは、マイナス要素だということです。

よく「ムエタイでは腕を蹴られるとポイントを失う」と解釈されていますが、正確に言えば「腕でブロックしていても、押されて後退したり、反撃できない体勢になった時、それはブロックではなく『蹴られた』としてポイントを失う」のです。

結果として、バランスを崩されずに蹴り返しやすいヨックバン(スネによる蹴りのブロック)が必須技術となるわけですが、例えば日本でもおなじみのヨードレックペットは、腕で蹴りをブロックして前進しローやパンチで相手を崩すスタイルでトップ選手になっています。

また、わかりやすい例で言えば「神童」那須川天心(最近「神」に昇格したみたいです(^_^;))がスアキムやロッタンと対戦した際に、目と足でパンチをよける「神」業的なディフェンスを見せてくれました

凄い技術ですが、ムエタイ的に言えば、そのあとに有効な反撃がなければ「逃げてるだけ」という見方もされてしまうと言うことです。

実際、タイではそのような評価もされていたと聞きます。

天心の実力は、さすがにタイ人も認めていると思いますし、本稿でケチをつける気など毛頭ありません、念のため。

ディフェンス技術に対する考え方の、キックボクシング(ボクシング)とムエタイの違いがわかりやすい例として挙げただけで、どちらが正しいわけでもありません。

この文脈で考えると、ムエタイベースで育った一貴のディフェンス力が高いという意味もわかりやすくなるのではと思います。

要は「自分が崩されずに、相手を崩せる体勢に持ち込める」ということです。

川上のローはしっかりスネでカットし、パンチや上半身への蹴りはブロックと同時に距離を潰してパンチ、それもボディーショットで押し込むという展開で、じわじわと川上の攻め手を封じていきました。

それを可能とする体幹の強さ自体が、ディフェンス技術なのだと言ってもいいですね。

3R、基本的には流れは変わりませんが、一貴がちょっと焦れているように見えました。

1Rからそうでしたが、構えもワイドスタンスにして、パンチ一辺倒とも言える攻め方に「した」、のか「なった」のかは解りません。

ただ、観ていても感じたのは一貴が「早く倒したがっている」ということです。

もちろん、一貴はそもそもパンチでのKOを量産してタイでも認められたスタイルなので、特におかしなことではありません。

しかしながら、前回の田丸戦ではプレッシャーをかけつつミドルキックで距離を支配し、相手のしたいことをしっかり潰すという手順を踏んで、左フックでダウンを奪っています

今回はいきなり詰めて単発の強打一辺倒でした。

もともと日本のキックボクシングでは、(ボクシング文化の影響から)KOが高評価される傾向があります。

また、ホームリングとなったRISEにきた外敵をマットに沈めるのはチャンピオンの仕事かもしれません。

そして、その期待に3R以内に応えようということですから、焦りは生まれても仕方ないところです。

...格闘技の選手として試合に出ている方々に向けての脱線ですが、小野の選手時代の感覚としても「早く、そしてできれば一発で倒せれば一番いい!」のは確かです。

...パンチ力ないので、そう思って挑んだ試合で倒せたことは一度もありませんが(笑)。

(^_^;)

自分も相手も、勝つためにキツい練習をしてリングに上がるのですから、あっさり倒して終わるのはムシがいい話ですね。

お互いを削り合う展開も覚悟してフィジカルとメンタルを作り、その上で戦略があり、結果としてKOにつながる、というのが正しいのでしょう。

その意味でも、あっさり倒せる天心は「神」レベルですね。

結果につなげるプロセスも含めて。

さて、結果は一貴の判定勝ちとなりました。

本人も納得の試合ではなかった様子だったのは、前述してきたような焦りの展開のためかなと思います。

もろもろの要因が重なって、結果として単調な攻めになったのだろうと考えられます。

試合後の本人のSNSでも、倒すことを意識しすぎたという主旨のコメントを見ましたが、そういうことも含めてプラスの経験にはなったはずです。

対する川上。

小野は初見だったのですが、いい選手でした。

正直、もともと現在のSBには男子軽量級は少ないのかなと思いますが、ともかくベルトを引っ提げてのRISE参戦です。

SBの、他団体への参戦、自団体へのホントに強い選手招聘(外国人含め)はガチで凄いと思います。

ブランドを大事にしたいからアンダードッグと組ませる、という発想をしないのでトップ選手でも普通に負けますし、そのかわり強い選手も育ちます。

これからもSB以外も含め、いろんな選手とカードが組まれることを期待します。

お読みいただきありがとうございました。

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