観戦レポート 2021 NO KICK NO LIFE② 石井一成 vs. 麗也

”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。

前回に続き、NO KICK NO LIFEのカードから。

メインイベント 53キロ契約3分5ラウンド

石井一成 vs. 麗也

一成についてはもはや説明の必要はないかもしれません。

アマチュアで数多くのタイトルを獲得し、プロではタイで連勝して日本に「逆上陸」を果たしてきた「西の神童」です。

KOCKOUT初代フライ級王者、BOMスーパーフライ級王者であり、先日のBOMでWPMF世界スーパーフライ級のタイトルも手にしています。

対する麗也は若くしてそのテクニックと強打で注目を集め、2015年にHIROYUKIをKOして新日本キック協会のフライ級タイトルを手にしています。

その後、拳の怪我が長引き、一度は引退宣言しながらも、今回の復帰戦でいきなりトップ選手と絡むことになったわけですが、あながち不釣り合いなマッチメイクではないと思います。

1R、一成が攻勢に出るのかと思いきや、静かなスタートになりました。

ここのところの一成の試合展開では、序盤からたたみかけるパターンが多かったので、おや? と思いましたが、これまでの反省もあるでしょうし、麗也のプレッシャーが効いていたのかもしれません。

しかし、一成の強いローは麗也の身体が流れるほど強く、後半に一成が詰める展開になり、2Rもそのまま続きます。

麗也自身はコメントしていないようですが、麗也の左ヒザの負傷はどの程度だったのでしょうか

テーピングの固定の仕方からすると、軽傷ではなかったのかもしれません。

可動域を犠牲にして固定する巻き方だからです。

ローのカットができていなかったのは、一成のローの上手さだけでなく、麗也の負傷とテーピング固定の影響は否定できません。

足を挙げる動きを制限しても、固定が必要だったのかもしれませんが、それは試合の評価とは関係ありません、と付け加えておきます。

怪我が無ければ...みたいなことを観ている側は考えてしまいますが、選手は全て飲み込んで試合場に立つからです。

選手にどんな事情があろうが、試合場の上で起こったことだけが全てです。

しかし、それでも麗也はコンパクトなカウンターを織り交ぜて、一成を崩しにかかります

蹴り足をキャッチされた状態で、バランスを保ちつつ一成の動きを見ながらバックハンドブローを狙ったところは驚かされました。

そして麗也のジャブが一成の勢いを止めていきます。

この後、2/28に行われたRISEでの那須川天心の試合でも、速くしっかりしたジャブが勝負のキーとなりましたが、2Rまでは麗也が一成を動かしていたと思います。

そして3R、麗也は一成の大振りに合わせてヒジを合わせ、深い傷のカットを負わせました。

その前の攻防でも何度かヒジを合わせにいっているのは判りましたが、きっちりジャストのタイミングを取りましたね。

脱線ですが、一発KOで決まる試合などでも、後から映像を見返すと似たようなタイミングの攻撃を、勝ったほうが何度か見せているケースは多くあります

ハイキック一撃で倒した、という印象の試合でも、その前からパンチに合わせてハイを狙い、クリーンヒットしたのが何度目かのトライだったという。

「狙っていた」パターンもあるでしょうし、身に付いた動きを自然に出しているうちに「ハマった」パターンもあるでしょう。

麗也のヒジは、「狙っていた」ほうではなかったかなあと予想します。

特に最近の一成の試合では、強いプレスと強打で押し切るパターンでの勝ち方が目立つので、「合わせる」ならヒジだというのは理解できるからです。

と言うのは簡単ですが、ヒジの距離まで一成の強打を呼び込まなければいけないのですから、倒される危険と背中合わせのプランです。

今回初めて知ったのですが、一成はもともとタイで活躍していた「逆輸入ファイター」なのに、「ヒジで切られたことが無かった」とのことです。

驚くべきことですが、タイの選手たちでさえ、一成にヒジを合わせることはかなわなかったわけですね。

そう考えてみると、麗也の技術力の高さと勇気は賞賛されるべきです。

逆に、一成は危機検知能力が不足していた、との評価もできると思いますが、今回の経験により身につけていくことなのかもしれません。

4R、切った傷を狙う意味もあって、ジャブで麗也がコントロールして立ち上がります。

対する一成は倒すためにパンチ中心のコンビネーションで前に出ます。

そして、カウンターのヒジを時にもらいながら、それでも手数で試合を引き寄せていきます。

必然的に麗也は打つ手が減っていくことになります。

カットによるTKOが宣告される前に勝負をつけようと前に出る一成の姿には凄みを感じました。

おそらく焦りや(陣営のSNSによれば)「キレた」ところもあるのでしょうが。

(^_^;)

最終5R、一成は打ち合いにいった中で、カウンターのヒジを当て返します。

逆に麗也の眉間をカットさせ、「切られてしまった」印象の悪さを奪い返しました。

ポイント的には劣勢の麗也も最後までよく粘ります。

ヒジのカットは、それだけで何かのポイントがつくことはありません。

一撃で試合を終わらせるためのハイリスクハイリターン技術であり、だからこそドラマチックで美しいのですね。

ジャブに加えて、回転技を混ぜてリズムを変えたりしながら、最後まで逆転を試みます。

ラスト30秒、麗也につられたか一成もバックキックを出す展開を観て、お互いがお互いの、格闘技選手としての「意地」のぶつけ合いになった、ストーリーのある試合になったなあと感じました。

判定は3-0で一成に上がります。

全体的な流れを観て妥当だと思います。

勝った一成の強さはもちろん、不調期を経て引退までした麗也の強さとポテンシャルの高さが印象に残る好勝負でした。

劇的なノックアウトだけが格闘技の醍醐味ではない、という試合が最近続いているように思います。

ちなみにこの日のNO KICK, NO LIFEは全5試合とも判定決着でしたね。

KOの迫力だけでなく、技術的な駆け引きも含め、格闘技を楽しめるカルチャーが育つことを祈ります。

...というかこのブログはそんな目的で書いているんでした。

(^_^;)

お読みいただきありがとうございました。

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