”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
レポート自体ずいぶん久しぶり、かつ試合自体からも時間が経ってしまいましたが(^_^;)。
小野もセコンドに入った試合です。
老沼については今さら紹介は要らないくらい実績・実力のある選手です。
若くして既に30戦近いキャリアがあり、現KNOCK OUTの前身、REBELSのスーパーフライ級チャンピオンでした。
STRUGLLE鈴木秀明会長仕込みのムエタイテクニックに加え、幼少期に身につけた空手の回転技も得意とします。
しかし直近では白幡裕星、奥脇竜哉、花岡竜、山田航暉に連敗し(間に海老原竜二から勝利。関係ないけど「りゅう」だらけですね(^_^;))、晴翔との試合の前戦では相手の減量失敗による不戦勝と、本人からすると不本意であろう時期が続いていました。
対する阿部晴翔(はるか)。
小野が臨時トレーナーとセコンドを務めるようになって4年目。
通常体重がバンタム級くらいのため、いつも体格的には厳しい試合となりつつ、少しずつ欠点を克服し、勝ち星も増えてきたところです。
2022年は、老沼の先輩である松﨑選手の引退試合の相手に抜擢され判定勝ち。
その後、KNOCK OUT期待のホープ、乙津陸には判定で敗れ、8月のNKB新潟大会では地元の佐藤勇士から3Rに3度のダウンを奪いTKO勝ち。
上昇気流を起こしたいところで、大物との対戦が決まったので「これはチャンス」と思いました。
佐藤戦では課題の克服のみならず、「こう闘う」という組み立てにも成長が見られましたので、身内からすると老沼にも通用すればホンモノという思いがありました。
晴翔は体格こそ劣るものの、パワーとスピードは国内トップクラスと遜色ありません。
しかしながら、(良さでもある)気持ちの強さが裏目に出ていたこともあり、持ち味を結果に結び付けられない時期が長く続きました。
構え方から見直して、中間距離をどう支配するかを課題にした2022年でしたが、8月の佐藤戦ではそれがよくできていました。
打撃格闘技は、距離と空間の奪い合いという定義ができると考えています。
特段、小野のオリジナルな考えではないと思いますが、ざっくり言えばこんな感じかと。
お互いの攻撃が当たらない距離にいる場合、それは「どちらの間合いにも入っていない」、したがって両者の間に横たわる空間はどちらのものにもなりえません。
どちらかの攻撃が当たる距離の場合は、両者ともにチャンスがあるはずです。
もちろんショートが得意、組みの強さ弱さはありますが、自分のパンチが当たるなら相手のパンチも当たる状況が多いでしょう(だからこそ、リーチ差があればアドバンテージになるのですが)。
ではその前のいわゆる中間距離はどうか。
両者の間に横たわる空間は「どちらのものにもなり得る」ものになります。
その奪い合いこそ、打撃格闘技の本質だろうと考えています。
ムエタイでなぜティープ(前蹴り)やミドルキックが重要なのか。
中間距離の奪い合いを制するための技術だからだろうと思います。
ボクシングであればリードパンチ、前手の使い方が大事なのも同じ理由でしょう。
井上尚弥が凄いのは、そのパンチ力以上に、左で相手をコントロールする技術に長けていることだとして、異論はないのではないでしょうか。
2022年のボクシングにおける個人的なベストバウトは、寺地拳四朗vs.京口紘人なのですが、拳四朗のリードパンチの凄さが試合を決めてしまった感があります。
いきなり距離を詰めて強打でKOというのも魅力でしょうが、突き詰める価値は感じません。
と、いつものように前置きが長くなりましたが(^_^;)、こちらとしては左ミドルやティープで中間距離を支配し、接近してパンチで仕留めるプランでした。
これはこの先の試合も、相手が誰であろうと基本的には変わらないでしょう。
前日計量の様子です。
そして試合開始。
老沼は左ミドル。
軽めに蹴ってやはり中間距離を獲りに来ます。
結果として、この奪い合いにおいて老沼が一日の長を見せた試合になりました。
対する晴翔は中間距離をリードパンチで奪いにいきます。
リーチが長くなくとも、体の使い方をギリギリまで活かせば使えるリードブローが打てます。
これは今後もっと磨くところですね。
老沼が微妙に蹴るタイミングや位置(距離)を変えてくるため、晴翔は対処し切れていません。
それでも距離を詰めれば強打で老沼を脅かします。
対する老沼は、ミドルからハイキックへ切り替えます。
このあたりが巧さだなあと思いました。
ミドルキックなら、前に出て潰してカウンターというやり方もできますが、ハイキックはそれが難しいからです。
その分、バランスやタイミングが難しいものの、この日の老沼は晴翔をハイキックの射程距離に早い段階で捉えていました。
対する晴翔は老沼の蹴りをかいくぐりながら、近間に入ってパンチを振るいます。
そしてヒジ打ちも狙い、この距離でのプレッシャーをかけることには成功していたと思います。
が、やはり中間距離での攻防は老沼が有利。
2Rからはパンチで入ろうとする晴翔を牽制する足技が目立つようになります。
晴翔が強引に詰めても見切られていました。
このあたりから距離感を完全に掴んだ感のある老沼。
対する晴翔は、ミドルやティープを出すタイミングがつかめず、足が止まって先に蹴られるようになってきました。
気持ち的にも余裕の出てきた老沼と、焦りが見える晴翔。
晴翔の頭が軽く当たって、グラブタッチして再開の直後のハイキック。
老沼と晴翔の経験値の違いが判ります。
バッティングやローブローからどう再開するか、性格もありますが「真面目すぎるほうが損をする」のが基本だと思います。
バッティングなどはアピールして相手の気を殺いでおいて、レフェリーがファイトコールをかけたら、相手の姿勢が整う前に即座に攻撃をしてペースを掴む。
このあたりのいやらしさは、格闘技選手にはあったほうがいいと思っています。
そして老沼は蹴りの強さにも緩急をつけてきていました。
同じタイミングでも、常にフルスイングではなくディフェンスさせて距離を稼ぐ、つまり晴翔の距離に入らせないような蹴り方も目立ち始めます。
この時間帯で、試合の主導権は完全に老沼に傾きました。
追う晴翔を、あざ笑うかのように足を使ってはずすシーンも見られます。
晴翔側からするとストレスの高い展開ながら、当たれば逆転できるという、「あわや」の場面も作りはします。
最終3R、このままでは判定は相手に上がることは確実なため、多少強引でも詰める晴翔ですが、やはり見切られてるなという印象でした。
回転技も駆使して距離の支配を徹底する老沼に、詰めて逆転を狙う晴翔という構図は、試合終盤まで続きます。
いよいよラスト何秒となってくると、接近戦を挑む晴翔を組み着いてからの展開で押さえて時間を使う老沼。
この頃には、こちらも「巧いな!」という感じでしたね、正直。(^_^;)
試合終了。
延長もあり得るルールでしたが、結果は双方とも判っていたと思います。
晴翔の顔が物語ってますね。
3-0で老沼の勝ちとなりました。
老沼自身も、適正階級より上で闘い続けて、この2年ほど思うような結果が出ていなかったこともあり、確実に勝つ戦術を取ったようです。
試合後、秀明会長からもそんな意味のコメントをいただきました。
接近戦リスクを避けて、しっかり長距離の攻防に徹するのは、技術力がないとできません。
完全に実力負けでしたね。
試合が終わればノーサイドです。
松﨑さんも一緒に。
また老沼選手と対戦できるよう、ひとつひとつ階段を登っていきます。
次戦、3/5 MAROOMS presents KNOCK OUT 2023 SUPER BOUT “BLAZE”
酒井柚樹選手と決まっています。
応援よろしくお願いいたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。