”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
前回に続きムエタイの試合レポートです。
Battle of MuayThai
略してBOM。
肘や首相撲の制限が少ない「ムエタイ」を前面押しにしているプロモーションで、タイで経験を積んでいる若い選手が多いことから注目してます。
第10試合 -53.52g 3分5R
カイト・ウォーワンチャイ vs. ユット・ZERO
(2:53頃~)
カイト・ウォーワンチャイこと福田海斗。
言わずと知れた「ムエタイメジャーリーガー」です。
主戦場をタイとしていた日本人選手が、日本のプロモーションへとUターンするケースが多い中、ぶれずにタイのトップ戦線と闘い続けています。
昨年、小野がラジャダムナンスタジアムで試合観戦した後に、タクシーでホテルまで帰る途中のこと。
運転手さんが片言の英語でどこから来たのか聞いてきたので、日本だよと答えると「カイト、カイト」とちょっと興奮気味にスマホを操作し始めました(運転中です)。
そして「これだろ?」と動画を見せてくれたのですが。
...それは梅野源治の動画でした(笑)。
(^_^;)
梅野もそれくらい知名度があるのですが、真っ先に名前が挙がる日本人ナックムエ(ムエタイ選手)は、間違いなくカイトだと言うことです。
その時はそれよりも、前を向いて運転して欲しい一心でしたが(笑)、けっこう凄いことです。
いわゆる首相撲、つかみ合いからの崩し、ヒザ蹴り、ヒジ打ちを武器としています。
このことは特筆すべきことです。
首相撲の技術の平均レベルでは、タイは他国を圧倒的に引き離すからです。
パンチとキックだけなら、勝負できる選手は世界中に一定数いますが、首相撲の展開が入ればその数は数パーセント以下に急落します。
カイトは、外国人の割には強いのではなく、本場のナックムエと同じ軸の中で評価されているのです。
対するユット。
元タイのランカーで、トレーナー兼選手として日本で活動しています。
この「トレーナー兼選手のタイ人」は、少しでも日本のキックボクシングを観ている方ならご存じのように、はっきり言ってピンキリです。
共通しているのは、基本的にはタイを戦場とする選手と違って勝負にガツガツしていません。
もともと、ナックムエにとってムエタイは「仕事」です。
強くなるという夢、ロマンではなく、単純に生活の糧とするために、タイの選手たちは子どもの頃から厳しいトレーニングをし、賭けの対象の試合に出ています。
いい試合をして人気が出れば収入が増え、そうでなければ切り捨てられていきます。
日本でムエタイを教えて生活できる環境は、彼らにとっては「それ以上上には行かないが、下には落ちない」安定した環境なのです。
そして、試合となっても、ほとんどの日本人キックボクサーの技術レベルであれば「何とかなる」のも事実です。
タイ選手は、もちろん得意な攻撃パターンはあるものの、基本的にはできない技術はありません。
パンチ力なら上回っている日本人選手でも、試合が始まればそれを捌けるのは、トップランカーまで行ったナックムエなら当たり前なのです。
したがって、トレーナー兼選手のタイ人は、試合に向けて真面目に努力などしないケースが多くなります。
(^_^;)
先日のKNOCKOUTライト級トーナメントで優勝したスアレック・ルークカムイも同じ立場の選手ですが、トーナメントを前に「今回は真面目に練習したから大丈夫、勝てる」とコメントしていましたね(笑)。
そして有言実行しました。
なぜこんなことを長々と書いたかと言うと。
ユットの身体が、想像よりも出来上がっていたからです。
前日計量のタイミングで、小野は大ファンのカイトの写真など撮っていたのですが(笑)、ユットの身体の締まり具合と、表情の引き締まり方が、以前のKOされていた試合時とはまったく異なると思いました。
ああ、今回はマジで勝ちに来るんだな、と。
単なる「仕事」ではなく、タイの国技であるムエタイで負けられないというナックムエのプライドがうかがえました。
後日情報によると、断酒したり練習量を増やしたりしたようです。
そして、「身体が違う」と思ったのはユットだけではありませんでした。
小野がカイトを生で観たのは5年ぶりくらいです。
前回はタイのプロムエタイ協会のタイトルを獲った直後だったと記憶していますが、172cmの小野よりは小さかったはずが、今回は少し見上げるくらいでしたね。
...小野が縮んだ可能性も否定できませんが(笑)。
(^_^;)
身長だけではありません。
胸板が厚くなり、上腕がビルドアップされているのは目を引きました。
所属のキングムエにはフィジカルトレーナーもいるので、トレーニングしているのは知っていました。
その成果が、身体に現れているなと感じましたね。
と、試合前情報ばかり書いてきましたが、それはこういうことです。
フィジカル差を活かして詰めるカイトに、タイミングや技術で対抗したユット。
しかし、結果はそのフィジカルの差が大きく出た試合でした。
具体的には。
1Rは笑顔を浮かべながらどんどん前に詰めようとしたカイトに対して、慌てずにリラックスして距離を保ち、鋭いカウンターを入れるユット。
前回も書きましたが、強いプレッシャーを受けながらそれを流すほうがキツいのです。
ユットはそれを遂行しながら、チャンスを狙っていましたね。
軽いパンチをヒットさせ、時にはヒジでカイトのアゴを打ち抜くシーンも観られます。
が、カイトは単なるフィジカルファイターではありません。
現役の、トップクラスのナックムエです。
それらに対処しつつ、ちゃんと距離を支配し、組み際のヒザを有効に使って空間を支配します。
そしてガッチリ組み合わない中間の組み距離を保ちつつ、右ヒジ一閃。
組まれたほうからすると、くっつけば投げられるだけで済みますし、離れられればもちろん安心です。
腕と腕とのせめぎ合いの距離は、組み技術が劣る側からするともっともイヤな距離なのです。
傷口が大きく、一度再開した試合もレフェリー判断でストップが入りました。
組み際の中間距離を制したのは何でしょうか?
もちろんムエカオ(組み膝の選手)であるカイトのテクニックもありますが、ユットとてタイのトップ戦線で闘った経験があります。
小野は、やはりカイトのフィジカル面の向上によるプレッシャーの強さがあったのでは、と思っています。
ユットは準備はできていたように思えますが、ラスト(3R)は消耗もうかがえました。
カイトの次戦が楽しみですし、早くタイのトップ戦線にまた絡んでいきたいですね。
118/122ポンド(バンタム/スーパーバンタム級)なら、サオトー・サオエーク兄弟、プラチャンチャイ、コンペット、ヨーティン、ロンナチャイ、スーサット、あと誰います?(笑)
というくらい神の階級です。
そこに割り込んでいくこと自体が大冒険ですが、カイトならできるでしょう。
お読みいただきありがとうございました。