”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
恒例のBOMですが、今回は小野がセコンドを務めた第3試合よりも先に、このカードをレポートします。
しかも、もともと遅筆な小野には、(これでも)珍しく早いタイミングでのアップとなります。
(^_^;)
理由は2つ。
1 普段は試合から日が経った時期に書いているのは、思い入れのある選手のレポートしかしないので、少しクールダウンしてからのほうがリアルタイムに感じたこと以上の発見があったりするからです。
言わば「寝かせて」から考察し直しているのですね。
...半分は筆が遅いことの言い訳です、はい。
(^_^;)
でも、この試合は熱量が高いうちに書いておこうと思いました。何と言うか、そのほうが正しいと思えたからです。
2 この試合は有料配信されていますが、まだチケット購入可能です。視聴期間は4/18 23:59までです。できる限り多くの人に観てもらいたい、と強く思えた試合でした。
第2部 第9試合 BOMバンタム級王座決定トーナメント決定戦
カイト・ウォー・ワンチャイ vs. 大﨑 孔稀
もう、あえて紹介のいる選手たちではありませんね。
このカードは王座決定トーナメント決勝のため、ある意味強制的に組まれたわけですが、それでも一般的にはどちらかが断ってしまうこともありうることです。
他のプロモーションとの兼ね合いもありますし、特に海斗の場合にはタイへの渡航が可能になった時点で実質的に流れる可能性が高い組合せでした。
正直、実現には驚いたところもあります。
背景としては、小野が、この試合は海斗が圧勝する予想を立てていたからです。
日本の有力プロモーションでも売り出し中の孔稀サイドとしては、先送りしてもおかしくない試合でした。
それでも、孔稀サイドは対戦することを選びました。
孔稀と大石ジムを見くびっていたと認めざるをえません。
そもそも「同じ階級でムエタイで海斗と闘える日本人なんていない」と思うくらい、「ムエタイ」を基準にした場合の海斗のレベルは高いのです。
いるとすればムエタイを「知っている」大﨑兄弟と、同じく「西の神童」石井一成でしょう。
しかし、孔稀は前回のBOMで、一成は今回のBOMで、元タイ最軽量王者で、現在はトレーナーが主業のサンチャイ・TEPPENGYMに首相撲で投げられまくった上での勝利を収めています。
現役のタイのランカー相手に首相撲を武器に互角以上に闘い、評価も高い海斗相手に、孔稀が勝てるかと言えば、ほとんどの(ムエタイを知っている)人なら、「まあ無理」予想だったのではないでしょうか。
たぶん、タイで組もうとすると賭け率が離れすぎて無理かも、なんて想像もしてしまいます。
...長々と予想が外れた言い訳から入りました(笑)。
(^_^;)
試合展開を追ってみます。
1R、の前にまずは海斗の長いワイクルーがありました。海斗のワイクルーはタイの選手と比べても美しいと思っています。
名高もそうですが、きれいなワイクルーを踊る選手は、その分長く舞います。
孔稀は長い時間待たされました。
試合の立ち上がりは静かでした。
孔稀もムエタイらしく、軽く蹴って出方を伺います。
これはやや意外な感じもしました。
小野の予想で言うと、孔稀が勝てるなら自慢の強打を初めから振るって、倒せないまでも序盤で押し切ってしまう展開かなあと思っていたので。
タイで試合をする日本選手が、よく「タイ人には倒さないと勝てない」という感じですね。
しかし現実には、レベルが見合っていればそんなに簡単に倒れてくれるタイ人はいません。
この試合の場合、海斗はタイ人とイコールです。
対する海斗。
ティープをキャッチされたシーンや左ハイキックを浅く被弾した後、笑顔を浮かべます。
目は笑っていません。
余裕を見せつけているのでしょう。
これも駆け引きだということです。
孔稀は、正直プレッシャーを感じていたはずです。
上背に優るタイ屈指のムエカオが迫ってくるのですから。
ムエカオでも1Rからいきなり組むことは、通常のタイの試合ではありませんが、圧を強める海斗は、何と言うか「格の違いを早めに示したい」ような雰囲気も感じられました。
それは、普段なら右ミドルを軸に距離を作ることの多い海斗が、この日は蹴らずにダイレクトに組める距離まで入ろうとしていたことから判ります。
結果からすると、それが孔稀には追い風になったと言えます。
じりじりと近づく海斗に、孔稀はよく退がらずに持ちこたえます。
この「退がらずに持ちこたえ」たことが、試合の流れを決めたのだと思います。
「退がらない」は単純に立ち位置を後ろに取ったりバックステップすることを意味しません。
「自分の攻撃が当たる距離を保った」ということです。
2R、少しずつ試合が動きます。
孔稀は、速いジャブを突きながらサークリングを使い、的を絞らせません。
前進する海斗のガードの隙間を丁寧に突きます。
これは、1Rと違いキックボクシング的な動きだと言えます。
そして右ストレートや左フックと孔稀の強打が当たり始めます。
一瞬、海斗の動きが止まったので、やっぱり孔稀の攻撃力は高いなと思いました。
そして、この辺りからカーフキックも蹴り始めました。
徐々にですが、海斗が孔稀サイドの敷いたフィールドにはまり込んでいったように思えるRです。
実際に、信じられないことですが海斗が組んだところを投げ返されるシーンもあり、採点10-9は妥当でしょう。
試合後、孔稀本人にも言ったのですが(控室が同じでした)、失礼ながら組みの展開であそこまで闘えると思いませんでした。
組み際の処理が上手く、海斗にいい位置で組ませないことはもちろん、自分に有利な態勢に持ちこんでいたと思います。
試合後の控え室で、首相撲の対処について質問してみました。
新しいノラシン先生などの影響もあるのかと。
大石会長は「いや疲れるから(ノラシンは)首相撲やんないよ(笑)」、
孔稀は「いや、ミットでの組み際は教えてもらってます!」
との回答でした(笑)。
きっといい先生だと思います。
3R、それでも、孔稀が落ちてくる可能性は高いと思っていました。
自分のリズムで闘っていても、実力的に対等あるいは上の相手に、冷静に自分の距離を作り続けるのは、かなり難しいことです。
しかも相手は、繰り返しますがタイで認められている、外国人(タイ人以外)最強ムエカオです。
きついだろうなあと観ていましたが、孔稀はむしろ海斗を引き付けて攻撃を当てようとしてるのかな? とも感じるシーンも出始めます。
海斗は露骨にヒジ一本を狙います。
2Rを取られていることは、心理的な影響もあったはずです。
そして、トップムエカオとして組みの攻防も含めてリードを許していることは、許せなかったのかもしれません。
海斗のヒジの打ち方は、予測しづらい角度で孔稀を襲います。
が、こうなると孔稀は警戒をヒジに絞れることになります。
ガッチリ組まれるシーンもありますが、頭の位置をうまく海斗の首に入れて、ヒジをもらわないことに専念していました。
投げられるのは仕方ない、ヒジだけはもらわないという姿勢ですが、結果として投げられることもありませんでした。
このあたりから、海斗のファイトプランは狂ってきた印象が強くなります。
やはり右ミドルを蹴らない(蹴れない?)ので、距離を潰せないまま時間が過ぎます。
こういうことです。
海斗たちムエカオが相手を捕まえるには、近づかないといけません。
が、相手は動くので捕まりません。
だからひとつ攻撃を入れて、動きを止め(ディフェンスさせ)、そこを捕まえるわけですが、この日の海斗はダイレクトに組もうとするばかりで、自分の距離になりませんでした。
気持ち的な焦り、それともらい続けていたパンチのダメージが大きくなってきました。
会場では3R後半くらいまで気づきませんでしたが、配信で見返すと2Rから海斗の顔が腫れ始めていますね。
タイでも、あんなにパンチをもらう海斗を観たことはありません。
そして、まったくバランスを崩さずに前に出続けていたので、その場ではダメージがたまっていることに気づかなかったのです。
タフネスと身体の頑丈さは、ムエタイでは大きなアドバンテージですが、孔稀の攻撃力はその上を行ったわけです。
これは、海斗が圧勝しようと強引に近づいたこともありますが、孔稀がキックボクシングの戦績を通じて得てきたパンチの技術もあったのだと思います。
ムエカオの海斗がガードを固めてプレッシャーをかけることを想定し、隙間に強打を滑り込ませる。
誰もができることではありません。
キングムエのSNSによると、海斗の右目には「眼窩内側壁」の骨折があったとのこと。
2Rの左フックで、既に右目が効かなくなっていたのかもしれません。
孔稀の一発の破壊力が活きたということです。
4R、やっと海斗が右ミドルを蹴り始めます。
タイミングもよく、孔稀が対応し切れない印象もありましたが、やはりギリギリの距離でのアウトボクシング的な展開でしのぎます。
しかしこのRは孔稀がよくしのぎ切ったという印象と、海斗が詰め切れなかった印象が混在しました。
右ミドルで距離を作った海斗は、孔稀を射程距離に収めることに成功していましたが、なにぶん4Rです。
タイなら、このRを押さえると勝つ可能性もあります。
しかしながら、日本とタイとのジャッジ基準の差もあり、オープンスコアリングのため、このRだけでは勝てません。
しかも右目の効かない海斗からすると、KOないしダウンを奪わないと、ビハインドを解消できないわけですが、そこまでには至りませんでした。
そして最終5R。
海斗は、やはり距離を詰める展開。
孔稀は距離は近いまま、「はずす」ことも意識したでしょうか。
しかし海斗はそうはさせませんでした。
攻め続け、最後までヒジで危ないシーンを作りました。
試合終了。
判定は、2Rを明確に制した孔稀に挙がりました。
凄い試合です。
後からいろんなことを思いつくかもしれませんが、まずは校了します。
ムエタイに対応しながら、キックボクシングのリズムと技術を最大限に活かしてファイトプランを遂行した孔稀。
以前は試合により波もあるなあと思うこともありましたが、本当に強くなりました。
そして、負けてなお、我々を惹きつけてやまない海斗。
今回は「らしくない」ような「らしい」ような試合でしたが、凄みは充分伝わりました。
試合後に2人とその陣営と話す機会がありました。
海斗はさわやかな表情でした。
「強かったです」と。
その通り、ボコボコに顔は腫れてました。(^_^;)
脚も引きずっていました。
孔稀も左まぶたが切れてました。
最終Rでしょうね。
それが、もう少し深ければ。
逆転TKOもあったはずなので、今回は全てが孔稀を中心に回ったのだと思いました。
それには、当然ですが本人の努力、ファイトプランを作った会長やトレーナーの尽力があっての、ビッグアップセット(と小野は思っています)でした。
勝手に日本ムエタイ大一番にしましたけど。
そもそも、ムエタイなんて100戦以上闘う選手もザラです。
だから、勝っても負けても、その中の1試合でしかない。
その意味では、タイに戻ってからの強敵との組合せを考えて練習する海斗と、「絶対この勝負に勝つ」孔稀の、バランスは違ったかもしれません。
タイなら1か月後に再戦だなーなんて軽い気持ちで、試合直後に本人たちに話したところ。
海斗 「いいっすねー(笑)」
孔稀 「いやもうやりたくない(笑)」
とのことです。
偽らざる本音でしょうね。
2人とも、この試合をしたことで、より成長できたのは間違いないと思います。
ホントに凄い試合でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。