”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
今回はCOVID-19の感染拡大が続くタイで全土でムエタイ興行が中断する中、同じく拡大中の東京で行われたムエタイ興行です。
しかも新宿歌舞伎町にあるFACEでの興行。
関係者や選手にとっても、なかなか緊張感のある大会となったのではないでしょうか。
(^_^;)
もちろん会場では万全の感染対策が取られていましたし、お客さんも割と静かに観ていた印象でした(一部、応援する選手の試合で大声を出す方もいましたが)。
第8試合メインイベント 56kg契約 3分3R
カイト・ウォーワンチャイ(キングムエ)vs.ポンちゃんシリラックムエタイジム(タイ)
カイト(海斗)については、毎試合レポートしていますし、もはや説明の要らない「ムエタイ・メジャーリーガー」ですね。
ここ1年半程、COVID-19の影響で主戦場のタイに渡れず、日本での試合を余儀なくされています。
相手がタイ人選手、日本人選手を問わず、ムエタイのトップレベルにいる日本人であることを示してきた1年半でした。
対するポンちゃん。
トレーナー兼選手であり、元ルンピニースタジアムのランカーとのことです。
直近では、4月のBOMで朝陽・PKセンチャイジム(エイワスポーツジム)に敗れていますが、パンチでダメージを与えたりヒジでカットしたりと、見せ場も作りました。
打たれ強いことと、切るためのヒジ(先端をいい場所に当てる)が上手いことが印象に残っています。
朝陽とは5Rマッチでしたが、海斗とは3Rになりました。
これは主催者都合(?)なのか、選手同士の交渉なのかは判りません。
が、海斗は5Rにしたかったと思います。
前戦のレポートでも、その前にも書いていますが、ムエタイは5Rを前提として闘い方が組み立てられている競技です。
(今でこそ、本場タイでも3Rの試合も組まれていますが、タイ人対外国人カードを中心としたメジャーとは言えないプロモーションがメインの印象です。)
ましてやムエカオの海斗にとってはなおさらです。
なので、この試合の見どころとしては、勝手ながら「3Rで試合をまとめられるムエタイができるか」でした。
前戦の片島戦でも、だいぶ修正してきたと思いましたが、タイ人相手となると、より「ムエタイ」らしいリズムの中での闘いとなるはずで、一ファンの小野としても、どう試合に入って、どう崩して、どう勝つのだろうと思いながら試合当日を迎えました。
そして、海斗にとって初の56kg契約。
普段は53kgくらい(118ポンド)前後なので、異例の重さです。
前述の朝陽戦の際のポンちゃんの契約は56.5kgだったので、お互いに譲ったかたちかもしれませんが、海斗サイドが相手に合わせた部分が大きいのだろうと思います。
というある意味不利な(相手の求めに応じたと思われる)条件での試合ですが、それでもここ何試合かと比べると、闘いやすい印象はありました。
単純に、相手がタイ人だからです。
一口にタイ人と言ってもいろいろなタイプがいますが、朝陽との試合を観た限り、いわゆるムエタイのリズムで闘う選手なので、3Rに慣れている日本人選手よりもかみ合いやすいかな、と。
海斗本人とも、チケットの件で試合前に簡単にDMでやり取りしたので、ついでに訊いてみたのですが、やはり日本人相手よりやりやすい面はあるようでした。
むしろ日本人相手のほうが対外国人のような感覚なんだと思います。
とは言え、朝陽戦を観てもポンちゃんは「勝ち方を知っている」選手であることは間違いなく、イージーな相手とは言えません。
さて、試合です。
海斗はいつものように、長く美しいワイクルーを披露します
(映像を観返すと、試合時間より長い)。
1R、ジャブやローの交換から、やはりスローペースの「ムエタイらしい」立ち上がりとなります。
そして、距離が近いことも注目していました。
今回はポンちゃん寄りのウェイトでの試合でしたが、本来的には海斗のほうが体格が大きいのは映像でも一目瞭然です。
それでも、両者ともに手を伸ばせば、蹴りを出せば相手に届く距離に立ったまま、細かいフェイントをかけあう緊張感のある攻防での立ち上がりとなりました。
この「近い距離」での攻防はムエタイならではだと思います。
タイでの試合を見慣れている方はご存じのように、日本のキックボクシングと比べると近距離での攻防が多く観られます。
フットワークを使う戦術は、基本的に逃げていると評価されることもあると思います。
この1年半、海斗に対してあの近距離で向かい続けた選手はいなかったのではないでしょうか?
対戦相手は、あの間合いに入るだけでも苦労していた印象が強くあります。
この距離感もあり、海斗は慣れたリズムで試合に入れたように思いました。
ここから主に格闘技をしている人向けの脱線ですが。
小野が現役の頃に、新日本キックボクシング協会フェザー級王者だった大野信一朗さんにいろいろと教わる機会があったのですが、大野さんからいただいた金言アドバイスのひとつが「ゆっくり近づけ!」でした。
格闘技選手でも、当たり前ですが相手の攻撃は怖いものです。
距離を取ってはずしたくなるのは、ある意味本能ですね。
しかし、遠い距離にいると自分の攻撃も当たりません。
そして、相手に近い立ち位置のほうがディフェンスでも、攻撃の威力がマックスになる前に止められます。
打撃はある一定の距離を使って攻撃しますので、例えばパンチが伸びきる前に前に出てしまえば、当たっても100%の威力にはなりません。
そして、「ゆっくり」と距離を詰めることで、相手の速い攻撃にも反応しやすくなります。
こういうことです。
お互いがハイスピードで交差点に入ってきた自動車同士は、おそらく激突を免れません。
が、一方がスローダウンしていた場合、そちらはブレーキをかけられ、衝突を回避できる可能性は高まります。
格闘技でも同じように、速い出入りをしていると相手の速い動きに反応するのは難しくなります。
ゆっくりしたリズムで動いていたほうが、相手がよく見えるのは確かです。
さらに、フェイントを入れるのも、遠くからだと恐怖心を与えられません。
駆け引きで勝とうとするなら、近距離に立つしかないのです。
...もっとも、那須川天心みたいな選手は、こういった原理や一般論を無視してしまってるなあとも思いますが。
(^_^;)
おそらく我々とは体内で流れている時間が違うのではと思います。
そして、ここからは珍しく(本業なはずの)空道のエピソードに再脱線してみます。
現在の日本空道-230クラス(最軽量)絶対王者の目黒雄太(長岡)と、小野の後輩でもあり空道と並行してキックボクサーとしても10年以上リングに上がった末廣智明(吉祥寺)の試合は、まさにこの「近い距離」をめぐる攻防でした。
2人は何度か対戦しています。
既に全日本タイトルホルダーだった末廣と、ライジングスターの目黒の初対戦から、末廣のラストマッチまで。
目黒は遠間からストレート、ミドルで攻めて、フィニッシュはハイキックというスタイル。
末廣は、やはり「ゆっくり近づ」いてミドル、パンチ、ヒザで仕留めるスタイルです。
末廣が勝った試合は、プレッシャーをかけて先手、返そうとした目黒にカウンターを入れて組み止めて首相撲という展開でした。
逆に目黒が勝った試合は、目黒が遠間で末廣の仕掛けを待ちつつ、攻撃を当てて誘って反撃を場外を上手く使ってしのぎ、瞬間的に投げて勝負あり、という展開でした。
お互い得意な距離を活かした試合を制しているということですが、空道の場合リングではないので、場外に出てのブレイクが発生します。
このことを上手く使った目黒は、競技特性を熟知していた点も、結果として引退試合となった末廣を上回ったかなと思いました。
ただし、末廣相手にそんな闘い方をできたのは目黒だけです。
厳しいプレッシャーに耐えられないと、場外を上手く使う戦術など取りえません。
明らかな逃避行動は反則の対象となるので、ギリギリで自身の攻撃も出しながら間合いを切らないといけないからです。
近距離を得意とする相手に、それを実行するのは簡単ではないということです。
ちなみに。
近い距離での攻防を磨くことは、パワーに勝る外国選手との試合を想定しても必要だと思いますので(ロングのほうが威力のある攻撃が飛んでくる)、「ゆっくり近づけ」は、取り入れるべき戦術ではないでしょうか。
長い脱線終わり。
大道塾・空道に少しでも興味を持ってもらえれば幸いです。
m(_ _)m
ムエタイの近距離でのゆったりしたリズムの攻防は、上記のような意味があるわけです。
2分過ぎくらいに、ポンちゃんはヒジを狙いました。
ちょっと早い印象でしたが、海斗のプレッシャーがきつくなってきていたのかもしれません。
笑顔を切り返した海斗には、まだ余裕と緊張感が両方あります。
試合のペースは徐々に海斗に流れ始めたかなあと、当日も思いましたし映像でも同じことを思いました。
元々のテーマ(見どころ)に戻れば、ファーストラウンドは5Rで言うと1~2Rにあたる攻防でした。
ムエタイのリズムで闘えたことで、海斗はだいぶリラックスしているような(試合中ですが)、そんな印象です。
2R、海斗がプレッシャーを強めます。
つまり5Rで言えば3Rあたりの展開を想定したのでしょう。
ポンちゃんはロープを背にする場面が増えます。
これは、押されていることは間違いありませんが、日本人選手がロープに詰まるのとはおそらく意味が違います。
退いても相手の攻撃をディフェンスして蹴り返せれば、ムエタイでは負けている評価にはなりませんし、ディフェンスを重視するのであれば、むしろロープを背負ったほうが有利な面もあるからです。
が、ポンちゃんの打つ手が少なくなっている印象は否めません。
ティープで距離を取りつつ、ヒジを時折狙うパターンに収束してきました。
海斗も距離を詰めてヒジを打ち、小野が観ていた席まで「ゴツッ」という骨と骨とがぶつかる音が聞こえてきました。
このあたりから海斗は試合を完全に支配し始めましたね。
ティープ、ミドルで中間距離を制圧し、どこで首相撲に捕まえるか、ヒザを入れるか、ヒジを入れるかを虎視眈々と狙っていました。
ロックオンした印象ながら、ポンちゃんもまだヒジを狙いますが、海斗は受け流しながら距離を詰め、コーナーで右ヒジを振り下ろします。
いいヒットだなと思った数秒後、レフェリーがドクターチェックを要求しました。
その時点では出血が多いとは思いませんでしたが、結果はドクターストップ。
10針以上縫ったそうです。
海斗からすると、2Rを通常ムエタイの3-4Rのように使う意味では、2R後半にフィニッシュとなったのはプラン通りだったかと思います。
あそこで試合が終わらなければ、3Rをどう闘ったのかとか、考えるのも楽しいところですが、もう少し観たかったなあというのも、また本音ですね。
(^_^;)
海斗の日本での試合は「いったんこれが最後」との触れ込みでしたが、タイでの全国的なCOVID-19の感染拡大は、この試合のあった7/29以降も続いています(日本も同様ですね)。
ファン目線ではまた間近で観たいところもあり、やはり主戦場であるバンコクでの試合も観たいところです。
今後の動きに注目しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。