”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
今回は先月行われた、小野もセコンドに入った試合のレポート、かつ反省文です。
(^_^;)
KNOCK OUT-REDスーパーフライ級 3分3R・延長1R
阿部 晴翔(あべ はるか) vs. 乙津 陸(おつ りく)
3月に続いてKNOCKOUT参戦となった阿部晴翔。
松﨑公則戦に勝利して、今回は注目の新鋭との対戦となりました。
松﨑46歳キャリア50戦、乙津17歳キャリア4戦と、極端な振れ幅での連戦となったわけですね。
晴翔は23歳になったばかりで、まだまだ若いのですが、このところのジュニア卒業選手の活躍は目を見張るものがあり、既に突きあげられるような立ち位置にいる世代です。
比べるのはおこがましいのですが、イッセイ・ウォー・ワンチャイこと石井一成(23歳)が花岡竜(18歳)に敗れたのは記憶に新しいですね。
花岡も既にプロ入りして3年は経っているかと思いますが、一成に勝つところまで一気に駆け上がってきた印象です。
乙津も花岡同様、ジュニアで華々しい戦績を残してプロ入りし、3戦全勝2KOと頭角を表している選手です。
KNOCKOUTプロモーションの期待を背負っている存在でもあるでしょう。
この試合は、お互いの前戦同様KNOCKOUTスーパーフライ級(-52kg)でした。
正直、フライ級でも小さい晴翔からすると、キャッチウェイトで少しでも軽くできないかなあと思いましたが、プロモーションの方針としては最軽量をスーパーフライに置いて、階級に合わせたマッチメイクをしたいとのことでした。
であれば、その中で勝たせる方策を考えるしかありません。
減量一切なしで、水分だけ少し控えた晴翔。
前日計量の時には、晴翔は500gアンダーでした。
当然ですが当日の体重も似たようなものです。
誤解を避けたいので書いておきますが、仮にこれが51kg契約とか50kg契約になっていたら結果が変わったとは考えていません。
ただ、単なる事実としては、目立った実績のない選手であれば、不利とも言える条件でも試合を受けざるをえないこともあるということです。
当日のリングの上では、2〜4kgくらいの差が生まれることになり、無視できない条件となるわけです。
その上でどう勝つのか。
松﨑戦では、圧力では負けるのは判っているので、有利な立ち位置からスピード勝負、という比較的シンプルな考え方で戦術を組み立て、実行して結果につながりました。
しかしながら今回の乙津。
体格に優るだけでなく、スピード・技術ともすでに一流レベルと言って過言ではありません。
タイトル保持経験の豊富な松﨑戦よりも、むしろ難しい試合と捉えていました
(だからこそせめて体重差だけでも小さくしたいと考えたわけですね)。
1R。
晴翔は課題としていた構えを意識しつつ、乙津を誘いながら前に出ます。
前回も書いたように、空間支配ゲームを制するためには、前手前足の使い方が重要になってきます。
晴翔は今回もその点をしっかり実行していました。
そしてカーフキックも使い揺さぶりますが、乙津も対応して蹴り返します。
晴翔の場合、小さいがゆえに「普通のローキック」とカーフの差が判りづらいところがあり、ここ何戦かだいぶ上手く使うようになりました。
今回の試合は、構えと空間支配とともに、攻撃を散らして乙津に「考えさせる」ことをひとつのテーマとしていました。
1Rは終始、構えでプレッシャーをかけながら攻撃の的を絞らせず、散らして崩す展開に持ち込みました。
「考えさせる」とは、晴翔が何を狙ってくるのか、自身は何の技で仕掛けてどう勝ちにいくのか迷わせるということです。
これは乙津が長い間合いからミドルキックかハイキックを蹴って転倒したシーンですが、「らしくないな」と感じました。
乙津は蹴りのバランスもよく、こういった場面はこれまでの試合でも無かったと思います。
若干「焦り」を感じていたのではないでしょうか。
晴翔が、乙津のやりたいことを上手く潰した立ち上がりだったと思います。
そして2R。
晴翔は1R同様、距離を支配する動きからボディーショットも多く見せます。
しかし乙津のプレッシャーも強く、ひとつミスしたら倒される緊張感も感じながらの展開となり、その中でアクシデントが生まれます。
首相撲の際で、晴翔の頭が乙津の鼻先に当たりました。
偶然のバッティングにより、試合はしばし中断されました。
注目すべきは、この時の乙津の落ち着きぶりです。
経験上、試合の中断は選手からは好ましくありません。
明らかにどこか傷めたとか大きいダメージがあったとかでなければ、早めに試合再開したくなるのが普通ですね。
解説の小笠原瑛作が言っていたように、「集中が途切れる」ことを嫌がるからです。
しかし、乙津は痛みはそれなりにあったとは思いますが、鼻血が出たわけでもなく、続行は難しくないように見えましたが、しっかり時間をかけて試合を再開します。
このあたりの時間帯までは、前述のように乙津はしたいことができていなかったはずです。
試合の流れを切り、リズムを立て直す時間として使っているように、その場でも感じていました。
乙津は前戦でもバッティングの中断があり、それをきっかけに試合の流れを変えていったのを観ていたから、余計にそう感じたのかもしれません。
これは何も小ずるい手を使ったとかいう話ではなく、その時起きたこと、その場にあるものを自分に有利になるよう使ったということで、ゲームコントロールに長けている証拠です。
再開後も、晴翔が揺さぶる展開にはなりますが、乙津が晴翔を捕まえるシーンが目立ち始めます。
首相撲の展開から、2度きれいに投げられたところで2R終了。
(ムエタイだと足を絡ませて転ばすと反則だったと思いますが、KNOCKOUTはどうなのでしょう?)
このほかにも、蹴り返しをブロックしつつ、晴翔の身体が流れる場面もあり、このRは取られたという認識でした。
1Rは差をつけづらいということはこれまでにも触れてきました。
2R以降、お互いがどう勝とうとしているかが見えてくると、その中でどちらのゲームになっているのか考えやすくなります。
2Rは、総じてみれば晴翔もプラン通りには闘えてますし、いい距離感で乙津の攻撃を封じながらボディーショットも織り交ぜてますが、やはり終盤に乙津がペースを奪い返して終わった印象は否めません。
3R、手数を増やす指示を受けた晴翔は早々に距離を詰めますが、そこにローキックを合わされてバランスを崩します。
狙って合わせたのなら乙津の技量を褒めるべきです。
そうでなくとも、これはお互いの心理的なせめぎ合いにも、ジャッジの印象にも響いたシーンだったかなと思います。
ダメージはなくとも、「転ばされる」のはイヤなものですし、単純に転ばせたほうは相手が立ち上がるまで休め、立ち上がるほうは体力を使います。
そして、このあたりから乙津は距離を上手く使い始めます。
体格的な優位を活かし、自分の攻撃は当てて、晴翔の攻撃は距離ではずす動きを見せました。
過去3戦を見る限り、「倒しに行く」強気のスタイルの選手でしたので、この戦術は想定外でした。
そしてやはり距離が詰まった場面では体格差で圧をかけます。
これは晴翔の左フックがカウンターでヒットしたシーンながら、クリーンヒットしていないミドルキックで晴翔が後退させられてしまいます。
このような場面が続き、晴翔もよく攻めますが乙津のカウンターへの警戒レベルを下げることもできず、攻撃をまとめられません。
そして3R終了直前、乙津が首相撲でコーナーに押し込んでゴング。
全体として大きな差のある内容ではありませんでした。
解説の小笠原も「延長あるんですか?」と確認していたことも、その証となるでしょう。
しかしながら、細かく差をつけるなら、やはり要所を押さえた乙津の試合でした。
受け返しの蹴りを何とかアームブロックしていた晴翔ですが、身体が流れているので「受けた」ではなく「蹴られた」という評価となるでしょうし、組みからの投げやアグレッシブさも乙津の印象を良くしていました。
判定3-0。乙津の判定勝利です。
晴翔の良さも出ていただけに悔しい敗戦となりましたが、負けに不思議の負け無しです。
3連続のKO負けもあった中、構えやディフェンス面の修正に、ここ1年ほどは意識を取られてきました。
性格的に攻撃にばかり意識がいきがちな晴翔にとっては、長い目で見て真っ先に修正すべき点だったことは間違いありません。
言わばアクセルを踏むことだけでなく、ブレーキの使い方を意識させることにフォーカスしてきたわけです。
今回はもう少しアクセルを早めに踏ませることも必要だったなと、コーナーマンとして反省しきりです。
しかし、今回の試合を経て、しっかり守りながら相手にプレッシャーをかけて、空間支配してから、どうやって対格差のある相手を崩し、自分は崩されずに倒せる攻撃を当てるのかというステージに進めます。
乙津の次戦はKNOCKOUTのビッグマッチとなるようです。
こちらも楽しみですね。
負けたから言うわけでなく、日本に数多く存在「してしまっている」タイトルホルダーを相手にしても、普通に勝って驚かないくらいの実力はあると思います。
試合後、乙津に「いつか再戦する時は、タイトル賭けてやれるといいね」と声をかけたら、本人は笑っていましたが、少なくとも乙津にとっては、あながち笑い話でもないでしょう。
余談ながら、乙津の所属するクロスポイント大泉・外智博会長は、今回初めてご挨拶しましたが、かなり前から知っていました。
何度かこのブログでも触れてきた通り、小野が所属していた大道塾吉祥寺道場には、一時期毎週だれかしらキックボクシング・MMAのチャンピオンクラスの方々が練習に来ていたことがあります。
その中の1人が、現ナインパックキックボクシングジム会長の、北沢勝さんです。
北沢さんは、プロのスラッシュメタルバンドのドラマーという顔も持ちつつ、元新日本キック協会ウェルター級チャンピオンでもあります。
その北沢さんのライバル関係にあったのが外会長であり、そのため小野も何度か試合を観ていたのですね。
この試合の後に、アマチュア大会でもご一緒させていただきましたが(と言うかまた対戦相手でした (^_^;))、大勢のジュニア選手を育成されていて、翌日のどが潰れて声が出ないほど、熱心にセコンドから指示を出されていましたね。
あの土壌があって、そしてあの情熱で、乙津のようなレベルの選手を輩出したのだなと納得した次第です。
その意味では、晴翔の所属する鷹虎ジムも負けてはいません。
アマチュアでもタイトルホルダーが何人も誕生しています。
そのジムのエースである晴翔。
後輩たちにカッコいい背中を見せられるよう、まだまだ精進ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。