”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
いつものように今頃かよというレポートになりますが。(^_^;)
この試合については、早めに書き始めてはみたものの、何度観ても客観的になれないところもあり、今頃やっと校了します。
その間、カイトの師である佐藤孝也会長が舞台裏をしっかりレポートして頂いており、答え合わせが終わった感じもありますが、その上で多少なりとも小野なりの解釈を、と思っています。
そしてバンコクでの次戦(6/9, vs. チャッチャイ)も終えてしまいました。(^_^;)
5R判定勝ちでしたが、その試合にも通じるところもありますので、今さらながらお付き合いいただければと思います。
3分5R
クマンドーイ・ペッティンディーアカデミー
vs.
カイト・ウォーワンチャイ
クマンドーイはタイの115-122ポンドあたりのトップ中のトップ選手ですね。
紹介されているTrue4Uの115ポンドタイトルは、この試合のわずかひと月前に、若手急成長株ペットシラーに勝って獲得したものです。
体重は相手に合わせて変えて試合をしている選手ですが、おそらくベストは118(バンタム)くらいなのかなあという印象です。
2020年の大晦日、RIZINで那須川天心と試合をしたことで日本でも知名度はあるかなと思います。
ちなみに、小野が最初にラジャダムナンスタジアムで観戦した時のメインイベンターでした。
攻撃的なパンチャーのイメージが強いクマンドーイですが、当時は上手いミドルキッカーだと思っていました。
中継で観ていたときもそうですし、生で観てもそういった印象でしたね。
その時も、退がりながらも含めたミドル主体で試合を組み立てて判定勝ちしていましたが、相手選手も良かったこともあり、試合終了後にはギャンブラーたちがひともめしていた記憶があります。
対するカイト・ウォーワンチャイ。
もはや説明の必要がない”ムエタイメジャーリーガー”ですね。
日本のジムに在籍しながらタイを主戦場とし、トップ選手の地位をつかんでいながら、いわゆるコロナ禍で丸2年以上タイでの試合ができない状況が続いていました。
その間は日本でも試合をしていましたが、在日トレーナーのタイ人や2階級程上の選手などと、「キックボクシング」の試合をする姿は、ファン目線では違和感を感じていたことも事実です。
と言いつつ、その違和感をもとにほとんどの試合をレポートしていますので、よろしければご一読ください。
m(_ _)m
3月に、くしくもクマンドーイがメインを務めた興行で久々のタイ復帰を果たし、結果は判定負けながら、トップに絡める力を維持していることを示したところです。
結果以上に、生き生きと試合をする姿に、彼の居場所はタイのリングであることを再認識させられました。
さてこの両者。
前戦では、クマンドーイが115ポンド、カイトが122ポンドと実に3キロ以上の差がありました。
今回の試合は122ポンドで、しかも前日計量(タイでは当日の朝に計量です)であることは、カイトにとってはホームリングであることとともに大きなアドバンテージでしたね。
(……………ちなみに、天心-クマンドーイ戦は57kg契約、つまり126ポンドくらいです。)
正直、それでも勝敗はどうかと思う程、クマンドーイは超一流です。
攻撃力がとてつもなく高く、タフで、経験豊富です。
今回の試合は日本の試合のため、会場でのギャンブルはありませんでしたが(たぶん (^_^;))、カイト陣営からすると、この試合を組んだこと自体ギャンブルだなあと思いました。
タイプで言えば、カイトはムエカオ(組んでヒジヒザの選手)です。
対するクマンドーイは、強打を振るうムエマットでもありますが、前述の通りミドルでコントロールできるムエフィームー(テクニシャン)でもあります。
今回の日本の試合で、どれだけタイ本土と同じようなジャッジをされるか判らないところもありますが(ギャンブラー不在のため)、3-4Rは首相撲に持ち込みたいのを前提として、立ち上がりの1-2Rをどう闘うのかがカギになるかなあと思っていました。
定石ならばミドルキックで距離をつかんでプレッシャーをかけ、組みやすい状況を作るところでしょうが、クマンドーイはミドルの好手という顔も持ちます。
前半で距離を支配できなければ、3-4Rも厳しくなります。
腕を伸ばして相手に組みつくには、その瞬間に強打をもらうリスクも負うからです。
だからこそ、ムエカオであっても中間距離の空間支配に優れていないといけません。
頭をよぎるのは、ちょうど1年前のBOMのカイト。
大﨑孔稀戦でしたね。
ミドルキックの距離を支配せずに、無理に距離を詰めたところに強打を浴びて眼窩亭骨折を負い、このコロナ禍の間で唯一の敗戦を喫しています。
孔稀を褒めるべき試合ながら、カイトの自滅の印象も強い試合でした。
そしてクマンドーイは、自滅を待たずにそのシナリオを作れるレベルの選手であることを考えると...勝手にこちらも緊張しましたね。
試合開始直前です。
やはり体格ではカイト有利だと思えました。
タイで試合できなかったこの2年、フィジカルトレーニングも重ねていたようですので、その成果もあったのでしょう。
1R。
試合開始直後のカイトの立ち位置には、「えっっ‼‼」と声が出るほど驚きました。
ありえない超接近戦を、自ら挑みにいったからです。
日本や他国のキックボクシングと比べて、ムエタイは向かい合う距離が近いです。
そこから退がったとしても攻撃の仕方によってはマイナスになりませんが、初めから攻撃の当たる距離にいかないのは勝つ気がないと評価される点もありますし、攻撃・防御ともにレベルが高ければ近いほうが闘いやすいからでしょう。
それを踏まえても「非常識」な立ち位置でした。
クマンドーイへのプレッシャーは、確かにかかっていたと思います。
慌ててミドルキックで離そうとしてキャッチされたり、跳び蹴りを出して転んだりしました。
そして、衝撃的なシーンが生まれます、
カイトの右フックで、クマンドーイがダウン。
先ほど、クマンドーイの特徴としてタフであることも挙げました。
体格的に優位な、そして天才パンチャーの天心にも、結局はダウンを奪われていません。
逆に、カイトは必ずしもパンチャーではなく、パンチでのKO勝ちは3年前の、やはり同興行でのタイのトップ選手ルンナライ相手が印象的なくらいです。
ではどうしてクマンドーイは倒れたのか。
試合開始直後から、接近してのローキックを多く出していたカイト。
ダウンシーン直前にも蹴っています。
判りづらくてすみません。(^_^;)
ローをカットしたクマンドーイ。
それまでの展開でもカットやスルー(脚を引いてかわす)で対応していました。
このシーンは、カイトが「カットさせて、引っかけて崩した」シーンです。
クマンドーイがカットし損ねて横を向いたのではなく、カット後にカイトの右脚に自分の左脚を引っかけられて横を「向かされた」のですね。
そしてそのままカイトは左ジャブ(ほとんどフェイク)。
それに反応したクマンドーイが右を打ち返そうとしたところに、右カウンター一閃。
クマンドーイは身体の軸が充分ではないバランスの悪い状態で打ち返してしまったのが判りますし、逆にカイトは重心が安定した姿勢から小さいモーションでカウンターを取ったことが判ります。
この一連の動きは、何と言うか凄いですね。
相手を焦らせた上で、バランスを崩してからのカウンター。
ムエタイ、というより打撃格闘技の最頂点にある技術です。
そして、ローをカットさせて引っかけて崩す動きは、試合後のカイト所属ジムの投稿を見ると、ポーダトレーナー(かつてカイトと好試合をし、本興行にも出場したタナデーです)と練習していたようです。
つまり、準備されてきた結果としての、先制ダウンだったというわけですね。
結果としてダウンを取れたことは、カイトにとって幸運でもあったと思いますが、その分、2R以降は厳しい状況が続きます。
まだダメージは見て取れるクマンドーイですが、強烈なパンチでペースを取り返そうとします。
身体ごとぶつけるフックは、ガード越しでも効いたことでしょう。
それでも超接近戦を挑み続けるカイト。
軽く組んでの攻防も見せますが、得意の首相撲には積極的にはいきませんでした。
まだ余力のあるクマンドーイに、早くから首の展開を続けると自身のスタミナも削られます。
さらに、首を取りに行く動きはパンチに対するディフェンスにもなりえますが、逆に伸ばした腕の隙間をパンチで狙われれば、倒されかねないタイミングでもありえます。
普通なら組む、組みのないルールでもクリンチになりそうな距離で、息詰まる攻防が続きます。
剣客どうしの ”鍔ぜり合い” を想起させられました。
カイトのテンカオに対してクマンドーイはフックでカウンター。
ほんのちょっとしたタイミングの間違いで勝負がひっくり返る、ヒリヒリする緊張感に包まれた時間でした。
3Rも基本的には似たような展開ではあるものの、勝敗に直結するラウンドに差し掛かり、お互いが自身のフィールドに引っ張り合うようなシーンも出始めます。
パンチからミドルで距離を作るクマンドーイと、間合いを詰めてローキックからテンカオ、ヒジを狙うカイト。
この時間帯から、カイトは自分から首を取りに行くようになります。
クマンドーイのパンチをくぐり抜けてガッチリとロックして顎を上げます。
この姿勢になれば、ヒザを出さなくともムエカオにポイントが流れますね。
クマンドーイのパンチも何度かカイトを捉え、動きからダメージもそれなりにあることが判りますが、持ちこたえて超接近戦を続けるカイト。
そして終盤にはミドルをキャッチしてきれいに後ろに転ばせます。
そして大事な4R。
お互い前に出る展開は変わりませんが、明らかにギアが上がります。
クマンドーイの身体ごと乗せてくる左フックは、ガード越しでも身体が流れる程の破壊力です。
直撃したら...と思うとぞっとしましたね。
しかしながらこの少し前の攻防の左ヒジ(だと思うのですが)で、カイトはクマンドーイの眉間をカットし、ドクターチェックが入ります。
正直、観てる側は「この激闘を観続けたい」が1/3、「止めてくれ!」が2/3」といったところでしたね。
(^_^;)
タイと日本では、カットの際の止めるタイミングは全く違います。
タイではそれなりの出血があっても、動けていればTKOになるケースはむしろ少ないように思います。
対して日本では早めにドクターチェックを入れて、傷が深ければダメージや選手の動きに関係なくストップします。
クマンドーイもそれを知っているからか、再開後は更にギアチェンジしてミドルを中心に反撃に出ます。
ここへ来て、カイトが超接近戦に耐えてきた意味が明確になってきましたね。
クマンドーイのミドルが出しづらい距離に立ち続けていたのだと。
カウンターでダウンを奪われ、テンカオと首相撲で封じ込められたあげくヒジでのカットを許してしまったところで、窮地から脱出するために、少し退がってでも距離を取りながらミドルでの反撃に出たということだと思います。
しかし、大きな流れを変えるまでには至りません。
というより、カイトがミドルを蹴られても前進して距離を詰めて闘い続けたということでしょう。
4R終盤、「何かとんでもないことが起ころうとしている」雰囲気に満ちてきていました。
いくらダウンを先取したとはいえ、その後のクマンドーイのパンチの炸裂音を聞いたら、カイトが倒されずに最後まで持つかどうか、コーナーも観客も不安と緊張が優っていたはずです。
だからこそ、4Rが終了した時「これで大丈夫かも」という、少しだけ安堵の雰囲気が流れたように思います。
4Rまではカイトの試合だったことは疑いなく、5Rは勝っているほうはディフェンスに徹底するのがムエタイの常識です。
だからこそ、5R開始後には、試合開始の時と同じくらい「えっっ‼‼」と思わされました。
めちゃくちゃ危ない位置に立ち続けてるじゃん! ということですね。
話が違うなあと思いつつ、まだハラハラは続きます。(^_^;)
しかしながら、そもそもなぜ超接近戦を挑んだのかと考えれば、5Rだからと言ってはずせないことも理解はできます。
ひとつにはクマンドーイのミドルで空間支配されないこと。
これは後述しますがカイトがローキックを多用したことともつながると思います。
もうひとつは、クマンドーイの攻撃をパンチに絞らせてブロックすること。
ミドルを蹴らせないことの裏返しですね。
5R、安易にはずしにいけば。
クマンドーイがミドルで空間支配する → 詰められてパンチが当たりやすくなる
ということも想定できます。
ハイリスクながら、クマンドーイがあきらめるまでは、同じ戦術を貫いたほうが、パンチをもらう逆転リスクを結局は抑えられるということなのでしょう。
と書くのは簡単ですが、実際にクマンドーイの強打にさらされていたカイトの肝の座り方は尋常ではないと思います。
何度か「リングが180度回った」と本人の投稿にありましたが、それくらいで済んだことが奇跡的です。
ほとんどブロックしているように見えましたが、それでも中盤からカイトの顔が腫れてきてますから、かなりヤバい破壊力なはずです。
それでも最終R後半まで、カイトはクマンドーイのパンチの距離に立ち続け、そして倒されずに立ち続けました。
ラスト1分くらいで、やっとはずす動きに入ってくれた時は、肩の力が抜けましたね。
これでいけると。
クマンドーイも最後まであきらめずにパンチを振るいました。
これもカッコよかったですね。
本場タイ人のトップとしてのプライドを示したのではないでしょうか。
そして試合終了。
ムエタイでは通例ですが、お互いにヒザをついて相手に感謝します。
特に、今回のような格の差が明確な試合の場合、格下のカイトがまず相手選手のクマンドーイに跪きます。
そして負けたであろうクマンドーイも、内心悔しいでしょうがそれに応じます。
大好きなカルチャーですね。
そして判定は、当然のようにカイトに上がります。
これは、本当に凄いことです。
ムエタイルールで、ムエタイの同階級のトップファイターを打ち負かしたのですから。
しかも、ムエタイの技術力で。
勝因。
など軽々しく言えないレベルの試合でしたが、カイトが超接近戦でクマンドーイの持ちカードをパンチに絞ったこと、それと関係してローキックを実に上手く使ったことは、間違いなくポイントになりました。
1Rのダウンもローキックから生まれました。
近づいた以上、自分からミドルキックは使いづらいですね。
ヒットしても威力は半減しますし、パンチとの相打ちリスクも高くなります。
今回カイトが多用したモーションの小さいローキックなら自身のバランスも強く、相打ちにもなりづらくなります。
モーションを抑え、フェイントも織り交ぜながらのローは、カットもしづらくクマンドーイを退がらせることにも成功しました。
カウンターでパンチを合わされそうでハラハラしましたが、クマンドーイにその素振りは見られなかったと思います。
ムエタイでは、蹴りにパンチというカウンターはあまり使われないことも一因かもしれません。
自分の話で恐縮ですが、ローキックに右ストレートでカウンターを合わせるのは、小野が現役時代によく使っていたパターンです。
ある時練習中に、師匠である飯村健一先生に、
「ムエタイだとローにパンチのカウンターって使わないんだよな」
と教わった記憶があります。
むしろパンチに蹴りでカウンターを合わせるのだと(そっちのが難しいじゃないすか、と思いました(^_^;))。
とは言え、強打が容易に届く距離でローキックを多用するのは、勇気が要るプランであることは間違いありません。
ガードをしっかり固め、小さくコツコツ蹴り続けて試合のペースを握りましたね。
よく「日本人がタイ人に勝つならパンチとロー」みたいな言われ方をしますが、それとは全く別次元です。
効かせると言うより「崩す」「散らす」ローキックですね。
カイトの新しい手持ちカードだと思います。
この後のバンコクでの試合でも、メイン常連選手であるチャッチャイに、近い戦術で完勝していますね。
もっとも、同じ闘い方だけではあっという間に分析され、通用しなくなるのもタイのレベルの高さです。
更に新しい引き出しを身につけて行く姿を観られることを楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。