観戦レポート20211010 SUK WAN KINGTHONG step by step

第8試合 56.5kg契約 3分3R

カイト・ウォーワンチャイ vs. クンナムイサン・ショウブカイ

”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。

相変わらず遅筆ですが(^_^;)、10/10のムエタイの試合をレポートします。

カイト・ウォーワンチャイ vs. クンナムイサン・ショウブカイ

カイトは6月の片島戦7月のポンちゃん戦に続いてのスックワンキントーン参戦です。

タイに渡航できずに早や1年半、日本での試合にも慣れてきた感じがします(それが良いことだと言い切れないのがカイトの独特な立ち位置なのですが)。

3Rでのムエタイの難しさ、特にムエカオであるカイトのプランニングの困難さは、繰り返し書いてきました。

片島戦レポートでも触れていますが、簡単に言えば元気なうちに相手を得意の組み合いに持ち込むリスクを取らないといけないからです。

しかしそれでも、日本人選手と比べるとタイ人選手のほうが、なんというか「上手くハマる」試合になるのも確かです。

この期間にカイトが闘ってきた日本人選手のレベルはけして低くなく、どの選手も本気でカイトのムエタイを攻略しにきていたと思います。

しかし、いやそのぶん、リズムや戦略など、どうもかみ合わないじれったさを感じてきたのも事実。

3Rであっても、タイ人とだとそれがなくなるのは、ある意味では当然なのかもしれません。

そして、今回の試合が面白いなと思ったのは、相手のクンナムイサンの出自です。

「MAXムエタイ」の元チャンピオンとの触れ込みで、日本でトレーナー兼選手を続けているのですが、日本人選手相手でもあまり勝率がいいわけでもなく、カイトとの格の差は明確です。

が、面白いかなと思ったのは、「MAXムエタイ」がタイでは少数派の「3Rムエタイルール」だからです。

MAXはパタヤに専用スタジアムを構えるプロモーションで、タイ人と外国人選手を中心に3Rのカードが多く組まれています。

2年くらい前にパタヤのジムで練習した時、帰りにスタジアムまで行ったのですが、チケットが割に合わない金額なのでショップを冷やかして帰った経験しかなく、あまり詳しくはありません。(^_^;)

中継で何度か観たことはありますが、強い選手ももちろんいます。

直接その時期のクンナムイサンを観たことはないのですが(たぶん)、3Rに慣れているタイ人がカイトとどう闘うのか、どうムエタイを組み立てるのか、個人的(すぎる?)観方で試合開始を待ちました。

1R、ムエタイリズムでの立ち上がりながら、むしろカイトが強めのローから崩しに入ります。

そしてミドルの蹴り合いなどの駆け引きが続き、大きな動きはないままこのRは終了しますが、キャッチから転ばすなど、採点するならカイトにつける場面も観られました。

日本人選手相手だと、1Rはどっちにもつけにくいだろうなあという展開が多かったですね。

タイ人とだと距離が近いことも、やりやすい印象の一因だと思います。

身長に劣るクンナムイサンですが、かなり近距離に立って攻撃のチャンスを伺っていました。

手を伸ばせば相手の身体に触れることができ、ミドルキックがお互いに当たる距離です。

タイでは退がること自体は特にマイナスになりませんが、相手に攻撃が届かない位置にいることは好まれませんね。

フットワークで飛び込んで退く、という戦術は取らないのが普通です。

相手を倒してやろう、力で押さえ込んでやろうという意思が見えることが重視されるということです。

結果、カイトのペースに傾いての2R開始となったと思います。

プレッシャーに負けたような印象でクンナムイサンから組みついて首相撲の展開も見られました。

ムエカオのカイトにとっては好都合な展開なはずですが、あまり深く付き合わずにブレイク、あるいはこかす展開が何度か続きます。

おそらく3Rでムエカオが勝つ最良のパターンはヒジによるカットということは双方の頭にあったでしょう。

BOMでのユット戦、そして前戦のポンちゃん戦はどちらもヒジによるカットでのTKOでした。

そしてこの両者に共通していたのは、「自らもヒジによるカットを狙いにきていた」ことです。

出血によるストップの早い日本での試合では特に、タイ人選手はヒジで早期決着を狙うのが定石ですね。

ましてや相手が実力上位のカイトなら、選択肢はほぼその一択になるでしょう。

クンナムイサンも、序盤にヒジを狙うモーションを見せています。

が、2Rの割と早い段階で「ガッチリ組む」距離に入って自ら首相撲の展開を挑むシーンが観られ始めました。

対するカイトは、それに付き合わず、むしろ組む前、組み際のヒザ蹴り(テンカオと呼ばれます)を増やし、クンナムイサンを突き放し、押し込んでいきます。

そして捕まえられそうな場面でも、あえて空間を作って密着しないようにも見えました。

が、何となくかみ合わない展開でもあったかなと思います。

前述したように、タイ人相手のほうがかみ合う試合になる予想は外れました。

...予想が外れるのはいつものことですが(笑)。

(^_^;)

カイト自身もちょっとイライラしながら闘っているような。

そしてほぼその展開が続いて試合終了。

カイトの判定勝ちでした。

しかし、観る側から以下のような疑問が浮かんでも不思議はありません。

タイ国内でも屈指の首相撲の強さを誇るカイトに、クンナムイサンがわざわざ自分から組んだのはなぜか?

本来はガッチリ組んで相手を押さえ込むムエカオのカイトが、組みに来てくれるクンナムイサンを突き放して離れた闘いを選んだのはなぜか?

いつもの通り(笑)、勝手な推測ですが、こんな感じなのかなと。

  • クンナムイサン : 一応ヒジとか狙ったけどカイト圧強いし、勝つの無理やからせめて倒されんように早めに距離詰めて、焦って来てくれたら一発狙ったろ!
  • カイト : 組みでいいポジション取っても意味ないし時間もない。とにかく突き放してヒザで削って、弱ったらヒジでフィニッシュしよう!

みたいなところでしょうか。

ガッチリ組みの状態からは、ヒジは入りにくいので、腕の押し合いくらいの距離が必要なんですね。

そして背景にあるのは、やはり「日本での3R」の試合だということです。

タイの現役選手が、自分から勝ち目のない戦術を選ぶようなことがあれば翌月からは試合が組まれないかもしれません。

つまり、失職します。

日本のトレーナー兼選手にはそれがない。

逆に日本では、首相撲でいいポジションをとってもジャッジがそれを評価することはなく、5Rかけて相手の一枚上をいくような闘い方自体が評価されにくい傾向にあります。

したがって、解りやすいダメージを与える攻撃(=テンカオやヒジ)のほうが見栄えがよく、KOにもつながりやすい。

もっと言えば、ただでさえK-1などのプロモーションに比べれば注目度が低いムエタイ興行では、「せめて」KO勝ちしないと目立ちませんから、プロとしてリングに上がる以上、カイトは自分に求められているもののハードルを上げていたのかもしれません。

この「倒す」ことを狙う印象は、この試合に限ったものではありませんが。

つまり、2人のナックモエは、各々日本のリングにアジャストする闘い方を選択したわけですが、まさにそのためにかみ合わない試合になった印象がありました。

いちファンとしては、カイトが大きなケガもなく勝てたことを嬉しく思うのですが、やはり、この国のリングは彼の居場所ではないんだなと感じた試合でもありました。

さらに本人も「動けてませんでした」と言っていましたが、コンディション的にも良くはなかったようです。

であれば自分の体力も消費する首相撲よりも、組み際で攻めるのは妥当な選択です。

孝也会長のブログによれば、やはりこの1年適正体重で組まれた試合が少なく(6試合中2試合)、調整が難しい面はありそうです。

そうでもしないと試合してくれる相手がいないと。

その動けていない分を「テクニックで誤魔化」したと。

それができるのも凄いことですが。

さて、そんな事情もあり、カイトの次戦はこんなことになりました。

やはり続けてスックワンキントーンで、相手は佐野貴信

もともとフェザーの選手ですが、今回はカイトが1階級下のスーパーバンタム級で計量する「ハンディキャップマッチ」です。

日本では馴染みがない、このハンディマッチはタイでは当たり前です。

「競技の公正さ」よりも「ゲームとしての面白さ・盛り上がり」を重視するカルチャーということでしょうか。

実力評価が上の選手が不利な条件で試合をすることで、賭けが成立する(盛り上がる)ことが期待されるわけですね。

そもそもカイトの本来の階級は118ポンドのバンタム級なので、実際には2階級差となるこの組合せ、どのように闘うのか想像してワクワクしています。

これに勝ったら、もう1-3Rと4-5Rで相手が変わる、1vs.2マッチだなとか考えるのも楽しいですね(笑)。

そしてそれ以上のいいニュースとして、11/1からタイが隔離無しで入国を許可する国に日本も入りました。

いよいよ、ホームのリングに戻る道筋が見えてきたということです。

これからもカイト・ウォーワンチャイから目が離せないですね。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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