まただいぶ前の試合を引っ張り出してしまいます。
(^_^;)
これもまた小野がセコンドを務めた試合なのですが、これまでとは毛色の違うレポートとなるかと思います。
ダブルセミファイナルII スーパーファイト 70kg契約 3分3R
マリモー(キング/NJKFスーパーライト級4位)
vs.
平塚洋二郎(チーム・タイガーホーク/大道塾仙南支部/J-NETWORKスーパーウェルター級王者)
(2:12頃~)
なぜこれまでとは違うのか。
・・・「レベルの高い試合ではない」からです。
m(_ _)m
相手のマリモー選手にも失礼な発言であることは重々承知の上ですが、率直に言って当事者同士以外には響かない試合だとしても仕方ない内容です。
※マリモー選手は同じジムの選手の代役を引き受けて2階級上の洋二郎と闘ってくれました。
しかし、逆に当事者である我々コーナーマンからの視点、そして選手を応援している立場の方々からすれば、技術レベル云々は二の次であることも事実ですし、格闘技に限らず全ての競技でも同じことが言えます。
その意味で、あえて書いてみます。
テーマとしては「試合に勝敗以上のテーマを持たせること」です。
さて、まずは平塚洋二郎と小野との関わりについて。
平塚洋二郎は、小野の所属する総合武道”空道” 大道塾の全日本チャンピオンです。
宮城県出身で、沖縄や福岡で選手時代を長く過ごし、現在は宮城県名取市にある大道塾仙南支部に所属しています。
キックボクシングの練習拠点は、阿部秀虎も所属する「鷹虎キックボクシングジム」です。
小野は岩手県盛岡市出身で、大学から大学院まで7年を仙台市で過ごしています。
大道塾東北本部所属でした。
ちなみに洋二郎の現在の師である佐藤繁樹仙南支部長は、東北本部時代の同期でもあります。
支部の違う後輩である洋二郎とは、彼が高校生の頃に合同昇段審査で顔を合わせたことがあるようですが、実は小野はあまり覚えてません。(^_^;)
世界大会に向けた日本代表合宿で声をかけられてからの付き合いになるでしょうか。
小野は身体指数(身長+体重)-250クラス、洋二郎は-260または+260クラスでしたので、対戦はありませんが、初優勝が同じ2006年だったりします。
小野はその試合を最後に現役引退していますが、若かった洋二郎はその後も2度王座についています。
空道引退後に、「空道を有名にしたい」という思いからプロのキックボクシングに挑戦し、2018年にはJ-NETのスーパーウェルター級タイトルを獲得しました。
生命保険を扱うライフプランナーとして全国を飛び回りながらリングに上がり続ける、大道塾の理念「社会体育」を体現する男です。
デビュー2戦目からは小野もセコンドを務め、その流れで鷹虎ジム所属の阿部秀虎もサポートするようになったわけです。
道着姿で入場した洋二郎
しかし、タイトル獲得後からの直近3試合、実は連敗していました。
Krushで2戦、中国でのキック興行1戦。
闘う舞台(ルール)や相手を選ばない(選べない)こともありますし、負傷が長引いていたことも影響しています。
選手経験のある方は(あるいは無くても)想像がつくと思いますが、重苦しい2年弱の日々だったはずです。
2020年はCOVID-19感染拡大の影響もあり、この日が初戦となりました。
対するマリモー。
名門キングジム所属のNJKFランカーです。
正直、ここのところの戦績はさほどではありませんが、2011年にはKrushに参戦して卜部功也と対戦。
ダウンを奪われて負けはしたものの、功也のバックハンドに合わせた右ストレートで実質ダウンを奪い(裁定はスリップ)、試合の後半では功也が露骨に逃げる展開に持ち込んでいます。
ダウン裁定なら功也も出ざるを得なかったでしょうし、それならアップセットになっていた可能性は高いと思いました。
身体ごとあずけるような重いパンチと、タフネスが売り物の選手です。
試合開始です。
洋二郎は事前から決めていた通り、本来とは逆のサウスポー構えでスタートします。
これは、戦術的にどうと言うよりは負傷の影響を考慮した判断でした。
マリモーとの身長差・体格差は歴然のため、上から押さえつけてヒザでダメージを与え、ヒジで倒そうよ、というのが小野の意見でした。
おそらく、同じ状況ならほとんどのコーナーマンは同じ指示をするのではないでしょうか。
Krushと違い、首相撲も制限されていないので、捕まえて削る戦術がもっともローリスクで結果に結びつくからです。
実際に開始早々に洋二郎がマリモーの頭を押さえてヒザをクリーンヒットさせ、後退させるシーンがありました。
そのシーンを含め、立ち上がりは洋二郎が上手くマリモーのパワーを抑えていたと思います。
しかしながら。
その後も洋二郎は不得手なサウスポーでパンチとミドルを中心に戦い続けます。
ヒット数もコントロールも優っていながら、威力もスピードもタイミングも一段階低いところで戦っているようで、観ていてもどかしい思いでした。
マリモーは、もちろん元々そのスタイルなので、ある意味ではかみ合った展開になるわけですが、コーナーではイライラが募っていました(笑)。(^_^;)
なんと言うか、ハイレベルなかみ合った展開は、コーナーは何とかその状況から抜け出したいとヤキモキし緊張するわけですが。観客は魅了されます。
しかし、この試合はコーナーはヤキモキするわ観客は飽きるわという、なんともはやな展開でした。(^_^;)
案の定と言うべきでしょうか、ラウンドが進むごとに試合は徐々に拮抗していきます。
マリモーの体力的・精神的なタフネスは予想通り、いや予想以上だったかもしれません。
戦前、小野は洋二郎に「相手は絶対倒れないし、消耗戦になる覚悟はしておけ」と何度か言った記憶があります。
もちろんそうなってほしくはないのですが、選手が楽観していたりすると試合開始後に修正するのは困難なのです。
今回は体格差もある代役ですので、そういう「弛み」が出ることを、事前には最も警戒していました。
最終3R、マリモーも前進して身体ごとパンチを振ってきます。
何回かヒットされたシーンもありました。
先ほど、「観客は飽きる」と表現してしまいましたが、当事者であるサポーター達にはもちろん関係ありません。
キングジム、そしてマリモーの応援団の方々は、パンチがひとつ当たるごとに(ガードされてても)大歓声をあげていました。
ああ、マリモーも愛されている選手なんだと思いましたし、東北からきたアウェイゲームなんだぞと、改めて意識しましたね。
それでも洋二郎に「弛み」はありませんでした。
要所で前手である右フックをカウンターでヒットさせ、マリモーの前進を阻みます。
試合全体を通して、ティープ(前蹴り)も有効に使えていました。
ティープで吹っ飛ぶマリモー
そして試合終了。
全体として試合は洋二郎がコントロールしていましたし、ヒット数も上回っていたはずなので、あまり不安なく判定を聞いていましたが、ジャッジは1者がマリモーに挙げるスプリットとなり、2-1の判定で洋二郎の勝ちとなりました。
内容はともかく、久しぶりの白星は本人はもちろん、コーナーも、そして全国から画面越しに応援してくれていた塾生も含め、ホッとしたと言うのが本音だったでしょう。
もう少しイージーに勝てる試合でもあった印象は、終わった後でも拭えませんが、本人のコメントとしては「ボクシングキックで勝ちたかった」のだそうです。
ボクシングキックとは、正式な呼称ではもちろんありません。
近年普及しているヒジ無し、首相撲無しのキックルールでは、どうしてもパンチの比重が高くなります。
ダメージとアグレッシブさが重視される日本(というかタイ以外)ではなおさらです。
技術的に高い選手ももちろんいますが、パンチ力と当て勘頼みの選手も多いのも事実だと思います。
「ボクシングキック」は、そんなシーンに対する揶揄的なニュアンスも含まれている表現ですが、洋二郎にはそんな意図はもちろん無かったはずです。
背景には、最初の紹介で書いたように、Krushでの連敗があります。
Kのルールは、ムエタイはもちろん、ヒジありのキックボクシングルールとも「全くの別競技」です。
大げさに言っているのではなく、競技の思想設計から全てが異なっていますので、本当に違う競技です。
ラグビーとサッカー、とまで言いませんが、少なくともアメフトくらいは違います(逆にわかりづらいですか(笑))。
同じトランクスを履いて同じグローブを付けて、同じリングを使っているから見た目が似てるだけです。
この辺は、気が向いたら細かく分析して書いてみるかもしれません。
キックボクサーでもルール馴致が必要なレベルであり、空道をバックボーンにする洋二郎にとって、Kのリングは決して闘いやすい場ではありません。
が、相手を選ばず大きい舞台に立つ挑戦を選んだのは、やはり「空道をアピールする」ためだったのでしょう。
さて、その経緯からマリモー戦を振り返れば、洋二郎がなんで相手の土俵で闘ったか、つまり組みヒザやヒジを使わずにパンチの打ち合いの展開を選んだのかが見えてきますね。
「Kのリングで失ったもの、奪われたものを取り返す準備」を本番のリングでやったのだということです。
連敗からの復帰戦的な試合で、勝つ以外にテーマを持たせていたことは賞賛したいと思います。
もっと言えば「大道塾はどんなルールで闘おうと強い」という先人たちが築いた誇りを取り戻そうとする姿は、結果に関わらずカッコいいのです。
...と、ここまでお読みいただいた方には、何か違和感があるかもしれません。
「そのテーマ、なんでセコンドの小野が後付けで解説してんの?」と。(^_^;)
前述のように、戦前の小野の意見は「上から押さえつけてヒザでダメージを与え、ヒジで倒そう」でしたから、洋二郎も言い出せなかったのかもしれませんし、実際に「ボクシングキックでいきます!」と言われたら「えー⁉」となったと思います。
よって、試合前から試合終了まで、ヤキモキし続けることになりました。(^_^;)
ちなみに試合から2か月が過ぎた現在まで、洋二郎本人とこんな話をしたわけではありません。
あくまで小野の理解がそうだということですし、特に答え合わせをしようとも思っていません。
ただ、この試合から学んだことを次回以降に活かすだけです。
それは「選手自身が試合にテーマを持たせているなら、それを踏まえてプランを立てるべし」ということです。
もちろん、選手のキャリアや特性にもよりますが、洋二郎はそもそも「空道を有名にしたい」というモチベーションでリングに上がっています。
ただ目の前の試合に勝つ以上に、実現したいことがあるということです。
普通、セコンドはこう考えます。
「選手が確実に、出来ればダメージを最小にして勝ってほしい」。
そして多くの選手はこう考えます。
「勝つのはもちろん、いい内容で自分をアピールしたい」。
そしてまた、チャレンジャーとしてリングに上がる選手はこう考えるのでしょう。
「自分に足りないもの、手にしたいものを獲得し、そして勝つ」と。
そのためのリスクはあえて背負うということです。
繰り返しますが、これはどの選手にも言えることではありません。
ただ、コーナーとリング内のギャップを最小化し、セコンドも選手も「同じ画を見る」ことができれば、より納得のいく結果が手に入るのではないかなと考えています。
Krushからオファーが来ているわけではありませんが、また機会をもらえたら、今回のマリモー戦を活かせた内容になるよう、こちらもサポートしたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。