”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
オリンピックも盛り上がってますが、その前のキックボクシングのレポートです。
メインイベント(第13試合) RISE DEAD OR ALIVE 2021 -53kgトーナメント 一回戦① 3分3R延長1R
大﨑一貴 vs. 石井一成
以前、このトーナメントの展開予測的な意味合いで書こうとして、結果そうはならなかった(笑)、志朗 vs. 一成のエキシレポートでも触れましたが、4度目の対戦です。
過去戦績で言えば、一成の1勝2分け、その1勝はKNOCKOUT初代フライ級王者決定戦でした。
それも、どちらが勝っててもおかしくないような激戦です。
今回のRISEでは選手同士が相手を選択する方法で、一成が一貴を指名するかたちで再戦が実現したわけですが、子どもの頃からお互いに良く知っている相手、かつRISEの同階級チャンピオンを選んだのは「思い」なのか「計算」なのかは判りませんが、事実上の決勝では? という声もSNS上で見かけるほど盛り上がる組合せになったのは確かです。
その意味で、一成はリスクも取ったわけですから、組合せの時点でプロとして充分に仕事をしていますね。
試合直前の表情、2人ともいい顔をしていました。
1R、お互いにローキックの交換から立ち上がります。
一貴の左フックを一成がブロックしたあたりからスイッチが入ったのか、パンチの打ち合いに流れが変わりますが、お互いにヒットさせません。
一成が距離を取って(のか一貴がプレスしたのか)高めのミドルを蹴りますが、一貴はバランスを崩すことなく左フックをリターンし、一成が大きく後退します。
このシーンは試合の行方を決めたのでは、と後から観返すと思えます。
おそらく一成はこの左フックで鼻血を出し、少なからずダメージを負ったはずです。
しかし一成は負けん気の強さでパンチを打ち返します。
ハンドスピードと手数では、一成に分があるなとは戦前から予想していましたが(大方の見方もそうでしょう)、やや正確さを欠いたように見えたのは、やはり効いていたのかなと思います。
解説の那須川天心も「一成は蹴っていったほうがいい」と言っていましたが、やはり「目がいい」なと思いました。
対する一貴は落ち着いていました。
しっかりしたガードからプレスをかけ、位置取りも活かして一成にロープを背負わせます。
これがディフェンスとしても機能しているのが、現在の一貴のストロングポイントであることは、以前の試合レポートでも触れてきましたが、一成としても予想以上だったかもしれません。
左フックも強弱をつけて「効かせる」より「当てる」感じでヒットを奪いつつ、ローで軸足を蹴って一成を転倒させます。
そして得意技のバックキックを織り交ぜて、試合のペースを握ります。
一成は、そうはさせないという意地で前に出てパンチを振るいますが、逆に一貴の右ストレートがヒットします。
このあたりの打ち分けは、単純ですが一貴の凄いところだと思います。
ベースは右手を高くガードに使い、左のフックで詰めて、右は左がブロックされた時にボディーショットというパターン。
でも相手が大振りをしてきたりプレスをかけてきたときに、まっすぐ右ストレートを突き刺してカウンター。
左フックをコツコツ当てられていた一成は、この右も警戒しなくてはならなくなります。
右ストレートを上手く使うことで、相手をコントロールしているわけですね。
そういえば一貴の入場曲は、ザ・ブルーハーツ「僕の右手」でした。
ロックンロール大好きな小野の原点でもあり、若い選手が使っているのは嬉しい限りです。
(^_^)v
1Rの攻防にだいぶ筆を使いましたが、やはりこの序盤を抑えたことが結果として一貴の勝利につながったと思います。
終了のゴングの映像ですが、一成は「やるじゃん」という表情に見えました。
2R、一成がギアを上げます。
前重心から高速のコンビネーションでパンチをまとめ、ペースを奪い返しました。
ボディーショットやヒザを効果的に使いながら、一貴のプレッシャーに対応します。
一貴にも焦りが見え始めます。
大振りのパンチが増え、被弾も見られるようになりました。
それでも強いプレスで押し返す一貴、流れを一気につかみたい一成。
その力の押し合いの中で、この試合を決定づけるダウンが生まれたわけです。
一貴の左フック。
直前までのヒットは一成が優っていたのではないでしょうか。
頭を振って右をかわした一成の顔が上がった瞬間に合わせたコンパクトな振りのパンチは、努力の賜物としか言えません。
一成は鼻血が口の中にだいぶたまっていたようです。
呼吸も制限され、集中力も落ちるところでジャストのタイミングのパンチが来てしまったというところでしょうか。
3R、もはや小野の解説などどうでもいいような激闘となりました。
...毎回そうじゃないかと言われそうですが(^_^;)、一応書きます。
後がない一成は、リスクを取って一貴の得意な距離で接近戦に挑みます。
ボディーショットからヒザで顔を狙うパターンは、何度も一貴を脅かします。
そして終盤の打ち合いでは右フックをヒットさせ、一貴がバランスを崩す珍しいシーンを見せてくれました。
インタビューで一貴自身が認めているように、かなりダメージはあったようです。
それをこらえた一貴の判定勝利となりました。
しかしながら、一成の凄さも誰もが認めた試合だったと思います。
勝手なことを言えば、ジャオスアヤイ(K-1参戦してましたね。タイで志朗にKO勝ちしてます)みたいなヒザが蹴れたら勝ってたかもと。
タイ人ではあんまり見かけない蹴り方ですが、一成なら蹴れるような気がします。
顔面パンチ無しの、いわゆるフルコン空手ルールの選手たちは上手いですね。
そして、3年前のKNOCKOUT決勝戦との違いは何だったのか、という観点でも興味深い試合でした。
小野個人としては、KNOCKOUT決勝も「ムエタイ判定なら一貴、キックボクシングなら一成」だと思いましたし、観返してもそれは変わりません。
ムエタイ判定ならというのは、簡単に言えば組み際を一貴が圧倒していること(ブレイクが早いので微妙ですが、一貴が押さえ込んで一成の自由を奪うシーンは何度もありました)、パンチはお互いに入っていますが、打たれてのけぞったり後退するシーンが一成に多く見られたことです。
もちろん一私見ですし、一成の勝利に疑義を持つわけではありません。
言えるのは、勝敗をつけるのがためらわれるほどの名勝負だったことですね。
それは今回のRISEでも同じでした。
ではなぜ勝敗が入れ替わったのか。
ダウンがあったから一貴の勝ちで決まったわけですが、2人の闘い方にも変化があったと思います。
今回、一貴は一成のミドルやパンチを、ほとんど体勢を崩さずに受けて反撃しています。
ヨードレックペットみたいでしたね。
前回は後退したりバランスを崩すシーンもあったので、一成も攻撃しやすかったのではないでしょうか。
「蹴っても崩れないだろう」くらいは、一成サイドも折り込み済みだったかもしれません。前回の試合も含め。
それでも、ボディショットを絡めた強打のコンビネーションを入れても、前進して反撃する一貴のプレッシャーは強かったと思います。
だからこそ、ムキになって押し返そうとしてダウンを奪われたのだろうと。
一成は、KNOCKOUTの時と比べて接近戦を多く選択していました。
組み無しヒジ無しルールなのも影響したでしょうが、3RのRISEルールでは一貴のプレッシャーを跳ね返さないとまずい、という感覚はあったのではないでしょうか。
一貴の「体勢が崩れてくれない」焦りから、そのスタイルにせざるを得なかったのかもしれませんね。
一貴はここのところ立ち位置の取り方を上手く使ってプレスするスタイルで連勝しています。
これはいわゆる「ボクシングキック」ではなく、バランスのいい強打を当てて崩すというムエタイの闘い方に通じるところだと考えています。
次戦は、そのあたりのムエタイ的な戦術にも長けた志朗が相手です。
ルールも判定基準も異なりますが、その観点で楽しみなカードです。
最後までお読みいただきありがとうございました。