”最先端の総合武道”空道 大道塾 三鷹同好会/Team Tiger Hawk Tokyoの小野です。
先日コーナーを務めた試合を、(いつものことですが)反省を込めてレポートします。
プレリミナリーファイト:第3試合 酒井 柚樹 vs 阿部 晴翔 【MAROOS presents「KNOCK OUT 2023 SUPER BOUT “BLAE”」】
この試合もそうですが、この日のプレリミナリーファイトは好試合ばかりだったなと思います。
KO決着と派手な倒し合いは本戦かもしれませんが、気持ちと技術の競り合いという、(小野が考える)格闘技の本質的な魅力に満ちていますので、ぜひ観ていただきたいと思います。
晴翔サイドとしては、この試合に特別な対策や作戦を立てるというよりは、戦力のレベルアップを図る、通常路線を守った準備をしていました。
ディフェンス・オフェンスの基礎力向上、中間距離の支配、一発の威力に頼らない倒し方などです。
その上で、この試合のテーマは「中間距離を支配して試合をコントロールした上で、自分の得意な距離に持ち込んで倒す」ことでした。
結論から言えば、前半はマルからサンカクで、後半はバツといったところでしょうか。
さて試合開始です。
両者とも、相手と目線の高さが同じなのは初めてだったのではないでしょうか。
身長158cmは、-52kgのスーパーフライ級でもやはり小さいふたりです。
しかしながら、もともとこのウェイトで闘っている酒井の首周りの太さ、背中の厚みは感じましたし、減量なしで計量クリアできる晴翔とのサイズ差は歴然としています。
が、攻撃力では晴翔のほうが上回ると読んでいましたし、実際そうだったと思いますが、酒井が体格アドバンテージを実に上手く使った試合となりました。
立ち上がりから、晴翔は左リードブローで距離を保ち、左右ミドルもいいタイミングで当てます。
このあたりが「中間距離の支配」を課題とした練習の成果でした。
当てるだけではなく、酒井の態勢を崩すこともできており、距離感はよくつかめていました。
が、酒井はそこから多少雑になってでも、前に出てパンチを振るいます。
そしてミドルもキャッチして打ち返すようにし、手数での優位性を高めます。
酒井の攻撃自体は、正直リング横で見ていても重いとは感じませんでしたし(晴翔も同じ感想でした)、倒されるイメージはありませんでしたが、なにしろ手数が多かったのは厄介でした。
ミドルキックも蹴り返してきますが、腰が入らない足蹴りです。
が、無視できるほど強気になれない晴翔は律儀にすべてディフェンスし、印象としては手数で酒井が押しているようになります。
コーナーとしては、判断に迷ったところでした。
「強引に詰めてくるならこっちもその距離で勝負」が結果としては正解だったのでしょうが、このところ課題にしていたミドルなどで距離をコントロールすることができそうでもあったので、その線で闘わせることも捨てきれないという感じですね。
1Rのラスト、左リードで酒井をのけぞらせて終わります。
このあたりが、コーナー(というかトレーナー)からすると「よくできている」ポイントだったわけですね。
しかし、全体的な印象としては酒井の手数と圧力を評価するだろう、とも感じながらのインターバルでした。
2R、晴翔も勝負ポイントを作りにいきます。
晴翔のフィニッシュブローの左ボディショット。
酒井は効いたかまでは判りませんが、パンチの強さは感じたと思います。
動きが止まりました。
しかし、そこで詰めるべき晴翔は様子を見てしまい、逆に酒井は勇気ある前進をして圧を強めます。
ここはこの試合のターニングポイントのひとつとなったと思います。
主導権を取れるところで取りにいかない者は、逆に勝負を相手に渡してしまうということです。
そして逆に酒井はボディショットを多用して晴翔にプレッシャーをかけます。
効いたパンチはなかったとは本人の弁ですが、やはり見た目の印象は攻撃が当たって有効な反撃がなければ打ったほうに上がるのは議論の余地がないところです。
晴翔も変わらずミドルキックで中間距離を支配しますが、その後が続きません。
やはりボディショットで詰める酒井。
晴翔は名高・エイワスポーツジムを始めとして3連続KO負けの経験もあり、ディフェンス強化も重要課題でした。
ディフェンスを固めるための、高めの構えの隙をつく意味でも、このボディーは有効でしたね。
カウンターを取ることも考えていたはずが。
「忘れてました」とは晴翔本人の試合後のコメントです。(^_^;)
このあたりは対応力の低さという次の課題でしょう。
近い距離の攻防が多くなると、晴翔の左フックもヒットします。
いい当たりではありませんが、晴翔のパンチ力ならこれでも充分にダメージを与えられます。
が、やはり詰めることをせずにラウンド終了。
短いインターバルの間「負けてると思って詰めて倒しに行け」とは言ったものの、流れを大きく変えるための一手は伝えられなかったなと、正直に思います。
3R、酒井はミドルはとにかくキャッチして打ち返す戦術を取ります。
ムエタイならば、転ばされたりしなければ蹴られているほうが不利かもしれませんが、ここは日本でKNOCK OUTのリングです。
印象は酒井だろうなと思いました。
同じディフェンスをしてくる相手を崩すのは、簡単なところもあります。
キャッチを狙っているのが明確ならば、取らせてパンチ、高さを変えてハイキックにする、タイミングをずらしてガードが空いたところを蹴るか殴る、といったところですが、晴翔にはまだそこまで教えてませんでした。(^_^;)
状況から考えて次の攻撃をする「対応力」は格闘技に限らず大事ですね。
パンチは当てているものの、「取られて打つ」のと「取らせて打つ」のでは、相手へのインパクトはまったく異なります。
終盤まで酒井は手数を多くして圧を強めます。
最後の最後でやっと晴翔も倒しにいく意識が出たのか、右ストレート、左アッパー、右ストレート、右ストレートとクリーンヒットを続けます。
が、遅すぎたなという印象ですし、本来のイメージでは右からの返しの左で倒そうとしていたので、単発に終わってしまった時点で積んでしまいましたね。
2Rでこの流れを作れないといけないところです。
試合終了直後。
酒井は晴翔の頭を「ポンポン」するようなしぐさを見せました。
深読みではありますが、酒井はこのところ連敗中であり、この試合はどうしても勝つという覚悟で臨んでいたはず、かつ最終盤での猛攻をはずしての試合終了ですので、まずは安堵があったと思います。
そして、「後輩」に対して「よくやったな」という態度にも見え、酒井の人間性を垣間見ることもできたように思います。
連敗にも腐らず、厳しい鍛錬を自身に課してきたことは、試合を見れば判ります。
応援している人間が多いことも、SNSなどでも判りますし、それに応えることができた試合内容だったなと、敵ながら思っています。
判定は2-0で酒井でした。
ドロー判定の一票はこちらサイドからは妥当ですが(2Rは酒井、3Rは最後のダメージで晴翔)、全体の印象からすると酒井だったことは否めません。
はっきり勝ちに行かないと勝てないということです。
晴翔がたくさんあった課題をクリアしながらも、結果に結び付けられなかったことはコーナーの責任だなあと痛感した試合でした。
試合の展開を決めた要因のひとつは、この試合が新・KNOCK OUT BLACKルールだったこともあると思います。
BLACKルールは従来、ヒジ打ちなし、首相撲短めのルールでした。
今回からワンキャッチワンアタック、タイオイル禁止、ワセリンも顔に薄くのみと変わっています。
つまり、主催者には怒られるかもしれませんが、RISEルールとほぼ同じになったということです。
RISEを主戦場とする酒井からすると、ホームリングのルールになったわけですね。
もともとのBLACKルールでも、晴翔は首相撲の選手ではないのですが(現在強化中です)、組み止めとヒジがないことは、身体でプレスするタイプの選手に有利に働くことは否めません。
「その先」の展開を考えずに前進して攻撃できます。
こちらとしては、その上でも倒しにいくシナリオを用意していたものの、酒井のプラン遂行力がそれを上回りました。
本来階級の低い晴翔からすると、首相撲ありルールでもなしルールでも体格差で押されることは折り込むしかないのですが、ヒジ打ちがあるとないとでは大きく戦略が変わりますね。
晴翔も小野もまだまだ階段を登っている途中です。
引き続き応援よろしくお願いいたします。